贖罪②
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それは本当に偶然のことだった。
夜中にふと目を覚ましたとき、食堂の扉の隙間から明かりが漏れていた。
ひそひそと、中から声が聞こえてくる。
僕は、何かと思い、そっと扉に近づき、中の様子を伺った。
そこで漏れ聞こえてきたのは、大人たちが子供を攫って来る計画の算段だった。
子供達は決して外に出れない。
外には化け物がいるから、出てはいけないのだと言われていた。
だが、それは子供を外に逃がさないためのもの。そして、村の大人達は外界へ通じる道を遮断させるために結界まで張っていたのだ。
外に出るためには、呪文が必要となり、それは村への忠誠を尽くす、つまり人攫いをすることとなった時に伝えられるということとなっていた。
自分は拾われた子供ではなく、攫われた子供だった。
信じていた村長も、村の大人達も、養い親も皆自分に嘘をついていたのだ。
驚愕は不信となり、そしてこのままこの世界にいることが僕は許せなくなっていた。
もう、何も信じられない。
ただ一人信じられるのは共に育ったユリヤだけだ。
僕のいるこの世界は嘘で出来ていた。
だけど、ユリヤだけは真実であると思えることができた。
この世界はどこもかしこも嘘で作られていたことを知ったことは悲しいことだったけれど、この外にはもっと広い世界があるということを僕は同時に知った。
そのとき、僕にとって外の世界は光り輝くものに感じ、果てなき自由への希望と、魅力と誘惑をもたらした。
――外の世界へ出よう――
僕は決意し、ユリヤの手を握りしめて走り出した。
――エリク……お兄ちゃん――
ユリヤの不安を取り除くように僕はその手をぎゅっと握る。
ユリヤもそれを感じて握り返してくれる。
僕達は駆け出した。
外へ出る方法を知った僕にはもう、恐れなど無かった。自由だった。
全てうまくいく。
外の世界に出れば、きっとユリヤも幸せに毎日笑って過ごせる。
村の人たちに無視され続けることもなく、暖かい日差しの中で生きていけるはずだと、僕は確信していた。
なのに……どうしてあの手を離してしまったのだろうか。
拭っても拭うことの許されない後悔を、僕はまだしている。
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