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散り逝くは真紅に染まりし花  作者: 天野 みなも
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贖罪①


 どうしてあの手を離してしまったのだろうか。

 僕達は走っていた。

 全てから逃げるために。

 この世界の果てを見るために。

 ――エリク兄さん……――

 不安そうに握り締めるユリヤの手を決して離さないように握っていたのに。

 どうしてあの手を離してしまったのだろうか。

 この嘘だらけの世界の果てまで行けば、きっと幸せになれると信じて、小さな僕達は走ったのに。


※ ※ ※ ※


 僕達は捨て子として村の人に拾われ、育てられた。

 外の世界では貧しさのため育てられない子供を森に捨てる親がいて、村人達はそんな捨て子を拾っては我が子のように育てているのだと言う。

 そして僕もそんな子供の一人だと言われていた。

 谷の合間にひっそりと存在するこの小さな村は、不思議なことに子供が生まれにくいのだという。

 だから、拾い子を育てるということは村にとっても有益であり、普通なこととなっていた。

 拾い子だからと卑屈になることもなく、自由に恵まれた環境で僕は育てられたと言えるだろう。

 だが、同じ拾い子の中でもユリヤだけは別だった。

 村人達に忌み嫌われた存在。

 決して虐待をされているわけではなかったが、村人は彼女に関心を示さず、まるで空気のように扱った。

何故、彼女だけがそんな扱いを受けるのか。

 そんな素朴な疑問を、子供の僕は養い親に尋ねた。

 そのときの養い親のこわばった表情を、僕は忘れない。

 あの優しい養い親が、能面のように表情の無い表情を浮かべ、冷たく言い放ったのは答えの無い答えだった。

 ――あの子は忌み子だから――

 何故忌み子なのかは分からない。

 だけど村長が忌み子と定めたから、だから彼女は無視される存在となったのだという。

 忌み子は村を守る神様の嫁となることで、清められるのだと言う。

 だから、ユリヤは大きくなったら神様の嫁にならなくてはならないと、そのとき教えられた。

 ――お前も関わるんじゃないよ――

 と、養い親は言った。

 だが、僕はそれが理解できなかった。

 ユリヤはユリヤだ。

 優しくて、可愛くて、暖かいユリヤ。

 ユリヤは自分の胸に赤い花のような痣があるから村人に嫌われているのだといっていたが、本当はそうではなかった。

 忌み子だから、その胸の痣さえも彼女を貶める言葉となったのだった。

 小さな僕がそれを知ったその日、僕の世界はゆがみ始めた。


※ ※ ※ ※

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