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散り逝くは真紅に染まりし花  作者: 天野 みなも
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脱出③

※ ※ ※ ※


 ガシャンという盛大な音が、牢獄に響き渡った。

 幸いにして、牢獄にはリンたちの他に囚人はいないようで、そのためか見張りもまたいない状態だった。

 今夜はユリヤが神の元へ嫁ぐ祭りの夜であることも、見張りがいない要因かもしれない。

 だが、この状態はリンたちが行動するにはもってこいの状況であった。

 アンリは地下の部屋から持ってきた大振りの斧を再び豪快に振り下ろした。

 だが、当たり前ながら鍵は反対にあるため、思うように壊すことができなかった。

 「なんで壊れないのよ!!」

 「ま、簡単に壊れるくらいなら、地下室にこんなもの置いていないでしょうね。」

 アンリが冷静に、もっともなことを言う。

 しばし牢屋の錠と格闘していたが、安易には開くことができず、リンもアンリも途方に暮れていた。

 リンは空腹を覚えて大の字に寝転んだ。

 「リン?大丈夫ですか?」

 「うん……大丈夫……だけど、おなか空いた……」

 「そうですね。昨夜、この村に来てから何も食べてないですしね。」

 「はぁ……カザンでもっと食べておけばよかった……」

 と、溜息混じりにつぶやくリンであったが、アンリはそれを聞いて、あれ以上食べるのかと内心思った。

 言えばリンの機嫌を損ねてしまうので敢えては口にしなかったが……。

 気付けば先ほどまで真上にあった太陽が、今は少し傾きはじめていることにリンは気づいた。

 もう昼も過ぎてしまっている。

 祭りが始まる慌しさに乗じてこの村を抜けたいリン達にとって、ここにじっくり腰を落ち着けている余裕はない。

 倒れこんだまま、リンは目を瞑り牢獄を抜け出す方法はないかと、頭を廻らせた。

 格子の入った天窓から入るわずかな光を感じる。

 外からは人の声はせず、代わりに鳥や虫の声が聞こえるだけであった。

 が、ふと遠くから何かの物音を聞いた気がして、リンはがばっと起きた。

 「リンも、気づいたのですね?」

 「えぇ。誰か来る……。」

 この音の主は、リン達にとって救いの天使となるか、それとも破滅の悪魔となるか。

 リンが鉄格子の外の通路をじっと見つめていると、それが現れた。

 「いた!!」

 「……ミランダ!!」

 「お姉ちゃん、お兄ちゃん、助けにきたよ!」

 ミランダは少し誇らしげに言った。

 「ちょとまって、鍵は……これだ!!」

 そういってポケットから鍵の束を出すと、リン達の牢屋の鍵を見つけ出し、開錠した。

 「ミランダ、どうしてここに?」

 リンは信じられないものを見るように、ミランダに問いかけた。

 「あのね、エリクお兄ちゃんに頼まれたの。お姉ちゃんたちを助けるようにって」

 「エリクが?」

 「そうだよ。」

 これは罠だろうか、と一瞬リンは考えた。

 だが、自分たちを助け出してもエリクには何のメリットもない。

 そもそも、村人に自分たちの存在を知らせ、捕らえた張本人であるエリクが自分たちを逃がそうとすること自体考えられないことである。

 で、あるならば、この誘いに乗るしかリンとアンリに残された選択肢はないのだ。

 アンリも同じことを思ったのだろう。

 リンの考えを読み取ったかのように、後押しをした。

 「リン、行きましょう。」

 「そうね……。どの道、助けは欲しかったのだし。」

 「あ、ミランダね、祭りの前までに戻らなくちゃいけないの。」

 「どこに戻るの?」

 言外に急げと告げるミランダに、リンは尋ねた。

 「ご神木のところだよ。ミランダ、お歌を歌う役目があるの。長様とかお兄ちゃん、ユリヤお姉ちゃん達はもうご神木のところに行ってしまったんだけど、ミランダは抜け出してきたの。」

 「そう、ミランダ、ありがとう!」

 「ううん。お姉ちゃん達に助けてもらったから、今度はミランダがお姉ちゃん達を助けるね!!」

 「リン、行きましょう。いつ見張りが来るかわかりません。」

 アンリに促されて、リンはうなずいた。

 「そうね。じゃ、ミランダよろしくね。頼りにしてるわ!」

 「まっかせて!!」

 ドン、と自分の胸をこぶしでたたきつつ、ミランダは勢いよく言った。

 こうして、リン達は牢獄を後にした。すべてを終わらせるために。

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