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散り逝くは真紅に染まりし花  作者: 天野 みなも
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脱出①


 ゆっくりと目を開けることで、初めて自分が意識を失っていた事実をリンは知った。

 目を開いてみても、どこか焦点は定まらず、うつろな意識のまま、苔むした薄暗い室内を見つめていた。

 「リン、大丈夫ですか……?」

 アンリが気遣うようにリンに声をかけた。

 その声にようやく意識を覚醒させてリンは、体を起こそうとして、両手が自由に動かないことに気がついた。

 見れば、後ろ手に縛られている。

「大……丈夫。」

 強がってみたものの、リンは後頭部に痛みを感じ、顔をしかめた。

 思い切り殴られたようだ。

 ゆっくりとなんとか体を起こしながら、リンは意識を失う前の出来事を思い出していた。

 むかむかと腹が立ってきた。

 エリクのことを、信じていたのに。

 その反面、たやすく自分の武器を相手に渡してしまった自分の軽率さをも痛感していた。

 「アンリこそ、大丈夫?」

 「私はおとなしくここまで誘導されましたからね。リンほどのダメージはないですよ」

 というアンリであったが、その口の端が切れているところをみると、思い切り殴られてしまったようだ。

アンリの丹精な顔についた傷は、痛々しかった。

 「私、どのくらい意識を失っていた?」

 「大分経ちますよ。捕らえられてこの牢に入れられたのは夜明けぐらいでしたから、そうですね…昼前くらいでしょうか?」

 確かに牢屋の高いところにある小さな窓からは、一筋の光が漏れており、日が大分高いところにあることが察せられた。

 「はぁ……不甲斐ないわ……。ごめんね、アンリ。」

 「いいえ、リンが無事であればそれでいいのです。」

 にっこりと微笑むアンリは、そのまま次の行動について提案した。

 「リンも目が覚めたようですし、この状況を何とかしなくてはならないですね。」

 アンリの言葉に促されるように、リンは立ち上がり、鉄格子の外の向かって叫んでみた。

 「誰かいませんかぁ?!」

 だが、誰にもその声は届かず、牢の中で空しくこだまする。

 無駄とは思いつつも、鉄格子を蹴ってみるが、やはりびくともしない。

 「アンリ……どうしよう。」

 「困りましたね……。」

 というものの、見張りがいたとしてすんなり牢から出してくれるとも思わなかったが。

 「エリクが……こんなことするなんて思わなかった…」

 「確かに、私もあの人の良さそうな顔にだまされましたね。」

 「はぁ……私、人を見る目ないのかなぁ。」

 「まあまあ、一概にそうとも言えないかも知れないですよ。」

 「え……?」

 アンリがそう告げると、リン同様に縛られていたアンリの呪縛が解かれた。

 そしてその右手には聖具から生み出された短刀が握られていた。

 「それ……聖具!?アンリのはとられなかったの?」

 「というより、敢えて残してくれたようですよ。」

 エリクはリンが聖具について説明したからこそ、聖具というものの意味を知っていたが、村人もまた聖具の存在を知らないだろう。

 だが、エリクが一言告げれば村人とてアンリに聖具を残したまま牢に放り込もうとは思わないだろう。

 とするならば、エリクは敢えてアンリに聖具を残したと考えるのが妥当であろう。

 アンリは短剣でリンの両手を縛る縄を切る。

 呪縛から開放されたリンが両手を見ると、縄の跡がくっきりとついていた。

 リンはその跡をさすりながら言った。

 「アンリ、今回の事件だけど、どうやら鍵を握るのはエリクのようね。」

 「と、いうのは?」

 「根拠は二つあるわ。1つ目はその聖具よ。エリクはそれが単なる装束ではなく、武器であることを知っていたわ。それなのに、捕らえた私たちにその武器を残してくれた…。」

 「そうですね。私もそう思います。」

 アンリもリンの考えに同調を示した。

 リンはそれを認めると、牢の壁際に腰を下ろしながら続けた。

 「二つ目はエリクの足よ。」

 「足……ですか?」

 「えぇ。実はエリクは足を怪我している様だった。それにエリクは犯人が男であることを知っていたわ。このことから、エリクは誘拐事件に関与していると思って間違いない。少なくとも、領主の子供を返しに来た人間はエリクに違いないと思う。」

 リンは確信を持って言った。

 「確かに、その話を聞いているだけだとエリクさんが鍵になるようですね。」

 「とはいうものの、何で領主の子供を返しにきたのかとか、私たちに武器を残してくれたのか、色々と聞きたいことはあるけどね。」

 そういいながら、壁に体重をもたれかけようとして、後ろについた手に、ヌメリとした感触を感じ、リンは小さく叫んだ。

 「ひゃ!!」

 「何かありましたか?」

 「ん、ちょっと冷たくて……。水かな??」

 そう言って何気なく自分の手を見たリンが愕然として叫んだ。

 「な、何これ!?」

 アンリがリンの手を見ると、べっとりと赤いものがついている――血だ。

 「リン、怪我をしたのですか?」

 「ううん、そうじゃない。」

 リンはその血の元を辿ろうと、薄暗がりの牢の壁に目を凝らして見た。

 壁と床の間からは、まだ生々しい血が染み出すように赤い溜りを作っている。

 「何で、壁から?」

 そんなリンの疑問に答える前に、アンリが壁をたたき始める。

 血が出ている壁のあたりだけ、音の響きが他の部分とは異なった。

 アンリはそのままその部分の壁に力を入れてみた。すると壁はくるりと90度に回転し、暗闇の中に下る階段が姿を現した。

 「ずいぶんと……凝った牢屋ですこと。」

 リンは口元を引きつらせながら、精一杯の皮肉を言った。

 「どうしますか……なんて聞くまでもありませんね」

 「やっぱり、行くしかないでしょうね。」

 リンはため息混じりにつぶやくと、地獄へ続くような階段を下り始めた。


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