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散り逝くは真紅に染まりし花  作者: 天野 みなも
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再会③

※ ※ ※ ※


 部屋から出た木の下で、リンはその体を木に預け、両手で足を抱きかかえ、うずくまっていた。

 「リンさん。」

 「エリクさん……。さっきは、ごめんなさい」

 突然名を呼ばれたリンは、おもむろに顔を上げた。

 その視線の先に、エリクを認めると、リンは素直に謝った。

 村人に悪魔として追われている自分達を匿い、暖かく迎えてくれたユリヤを、怒らせてしまったことを、リンは反省していた。

 そんなリンの素直さを、エリクは好ましく思った。

 まっすぐに、自分の意見を言うのは容易いことではない。

 特に、エリクのように、村の掟に縛られたものにとっては。

 エリクは、自分の考えを言葉にしようと、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 「僕も……決してユリヤを死なせたくない……。だけど、やっぱり村で生きるには村の掟を守らなくてはいけないんです。」

 「そう、なんですよね。私も……何か手助けが出来ればいいのに。」

 自分を匿ってくれた彼らに、リンは何も出来ないことを歯痒く思った。

 「いいえ、いいんですよ。リンさんがこの村に来たのは偶然です。それに、リンさんがやらなくちゃいけないことは、他にあるでしょ?」

 「そう……だね。私、任務中だった。ガザンでさらわれた子供たちを、見つけなくちゃ。」

 「そうですよ。あなたは聖騎士なんですから。」

 ぽんぽんと、肩を優しくなでるエリクの温もりが伝わる。

 きっと、ユリヤのそばに長くいたエリクのほうが、自分よりも遥かに苦しいのだろうとリンは思った。

 それでも、村の掟とユリヤの意思を尊重したエリクは、今、ユリヤと過ごす最後の夜を、どんな風に思っているのだろうか。

 そんなことを考えてエリクを見つめていると、エリクはその視線に気づいたように、リンを見ると、ふっと微笑んだ。

 その微笑みは、ユリヤと同じに優しく、そして少し寂しそうだった。

 「そうそう、その聖具っていうんですか?綺麗な赤色ですね。」

 「そうですか?自分ではあまりそんな風に思ったことないですけど」

 リンにとって、聖具は戦いの象徴である。

 これを手にしたとき、リンが戦いに身を投じる道は決まってしまった。

 だから、聖具にきらめく赤い石は、イシューの血を吸ったようにしか思えなかったし、戦い、イシューを封じるほどに、その色が濃くなっているようにしか思えなかった。

 その戦いの象徴をエリクは綺麗だという。

 「あなたみたいな華奢な女の子が、ミランダの言っていた化け物を倒すなんて、信じられないですね。」

 「そういえば、エリクさんもイシューを見たことがないんですよね?」

 「はい。ここの村人は多分見たことがないと思いますよ。これも守り神様のお陰なんですけど。……これって武器なんですよね」

 「そうですよ。」

 「どうやって使うか、見てみたいなぁ。」

 「そう……ですか?」

 もの珍しそうに見るエリクの様子を見て、無下に断ることもできず、リンは女神を讃える言葉を詠唱した。


     慈悲深き女神ラーダよ

      暁の光の如く

     その聖なる力で闇を切り裂く力を

      我が手に


 「聖具・解放!」

 左手から赤い光が生まれたかと思うと、それは剣となりリンの手に収まっている。その幻想的な光景を、エリクは息を飲んだまま見つめていた。

 「女神を称える呪文を詠唱すると、その聖石から武器が出るの。人それぞれ形は異なるんだけどね。私は剣、アンリは短剣を主に使うかしら。」

 「はぁ……すごいですね……。」

 剣をじっと見つめたまま、エリクは熱に浮かされたように呟いた。

 「……その聖具を、ちょっと借りてもいいですか?」

 突然の申し出にリンは首をかしげた。

 「いいですけど……」

 今日は色々な人に聖具を見せてほしいといわれるもんだなと、リンはこのとき軽く考えていた。

 エリクは差し出された聖具を手に取ると、リンがしているように左手にはめた。

 「へぇ。思ったよりも軽いんですね。」

 そういいながらエリクは二回、三回と手を握ったり開いたりしていた。

 そしてゆっくりと立ち上がろうとして、そのバランスを崩した。

 リンは慌ててエリクを支えて言った。

 「エリクさん?足、怪我しているんですか!?」

 「!……いえ、ちょっと階段から落ちて、怪我をしてしまいました。注意力が足らなくて、駄目ですね。」

 「そっか。気をつけないと、エリクさんはぼーっとしているから。」

 「まったくです」

 半分冗談めかしてたしなめるリンに、エリクは少し照れた表情を浮かべた。

 「へぇ。僕には……やっぱり出来ないかな。」

 「そうですね。『使い手』の資質がある人だったら可能かも知れないですけど。ま、一日二十kmを軽くランニングして、その後に剣術の稽古をする生活を三年間くらい続ければ、聖具も使えるようになるかもしれないですよ。」

 リンは半分冗談、半分本気でトレーニングメニューを告げた。

 それを聞いたエリクは、脱力したように首を左右に振った。

 「やっぱり僕に聖具は使えないです。僕も犯人の男探しに協力できたら……って思いましたけど、僕には力不足のようです。」

 「そんな。その気持ちだけで嬉しいですよ。」

 リンがすべきことと、エリクがすべき事は異なるが、双方とも互いの力になりたいと思っていたことを知って、リンは少し嬉しかった。

 エリクは聖具を自分の右手から外すと一言告げた。

 「犯人、早く見つかるといいですね」

 エリクから聖具を受け取ろうとして、リンはエリクの言葉に違和感を感じて、ふとその手を止めた。

 「エリク……さん。どうして……どうして犯人が男だって知っているんですか?」

 「どうしてって……リンさんが追っていたのは男だったんじゃ。」

 「いいえ、私たちは犯人……というか不審者の性別が分からなかったんですよ。それに、その足……」

 リンは言葉の全てを紡げなかった。

 この人の良さそうな人間が、自分達をだまそうとしているなんて、思いたくなかったからだ。

 だが、リンのその思いはエリクの次の行動によって、打ち砕かれることとなった。

 「やっぱり、リンさんは聖騎士ですね。」

 不適な笑みを浮かべたエリクは、ひとつ息を大きく吸うと、とたんに大きな声を上げた。

 「いたぞ!!悪魔がここにいたぞ!!」

 「エリクさん!?どうして??」

 「……あなたがたにいられては困るのです。言ったでしょ、僕たちは村の掟を守らなくてはならないのです……。」

 ドヤドヤと村人たちが集まる声がし始める。

 「リン!!どうしたのですか!?」

 「エリク兄さん!?」

 アンリとユリヤが周囲の異変に気がついて、部屋から出てきた。

 リンはこの事態をアンリにどう告げるべきか一瞬躊躇したが、それよりもまず、自分の聖具がエリクの手に握られているままであることに気がついて叫んだ。

 「聖具を……返して、エリクさん。」

 「それは出来ません。これを渡してしまったら、あなた方は僕たちから簡単に逃げおうせてしまうでしょ?だってリンさんは、騎士より強い聖騎士なんだから。」

 「エリク!」

 リンは実力行使でその聖具を奪おうとした、だが、次の瞬間、リンの後頭部に衝撃が走った。

 「う!!」

 リンは小さく呻くと、その場に崩れ落ちた。

 「リン!!」

 アンリの悲痛な声がリンの耳に突き刺さる。

 そして、リンの周りに多くの村人の罵声と足音が響いた。

 だが、体を動かそうにも頭がしびれて体を動かすことも出来なかった。

 そしてリンの視野は闇のように暗くなり、リンの意識はやがて闇へと落ちて行った。

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