深まる謎③
アンリはリンが言わんとしたことをまとめた。
「ではリンはこういいたいのですね。これまでの情報をまとめて導き出した結論としては、犯人は人間。目的は不明。現在の容疑者としてはさっきの不審人物。そしてそれには森にある村が関与している……ということですね。」
「うん、そう考えるのが自然かなって思う。」
アンリに話すことで、リンは状況を整理することができ、自分の考えがよりクリアになると感じていた。
やはり頼りになる相棒である。
「でもここで大きな問題がありますね。」
「うん。肝心の村が本当にあるのか。あるならどこにあるのか……。検討もつかないわね。」
「これまでの推論は状況を整理した上でのあくまで可能性の一つです。やはり現時点では犯人まで絞りこむことは難しいと思います。唯一の手がかりになるとするならば……」
「あの不審人物ね。アンリの言うとおり、今日は帰って明日の朝にでも血痕を探そう!」
リンの言葉にアンリも同意の表情を浮かべる。
そのまま村への道を戻ろうとしたリンの足が止まった。
「リン?」
「イシューの気配がする!」
闇に集中し、アンリはイシューの数を感知するために目を閉じた。
「一……三……。全部で四匹です!三匹は雑魚ですが、一匹は中級です。場所はここより南方の方角。」
「ここから離れているみたいね。イシューに嗅ぎ付けられる前に村に戻ろっか。」
「えぇ……。リン、人の気配が混じっています!」
「なんですって!?こんな時間になんで人がいるのよ!」
リンはアンリが示した方角へ向かって走り出した。
「リン、まさか今から行くつもりですか!?」
「あたりまえでしょ?人が襲われているかもしれない!助けなきゃ!!」
リンの力強い言葉に、アンリは黙って従った。
先ほどまでは厚い雲に覆われていた空であったが、いつの間にやら雲間から月が顔をのぞかせていた。
その月明かりを頼りに、リンは闇に沈んだ森を駆けた。
やがて前方から差し込む月の光が色を増し、一気に視界が広がる。
と、同時にリンはその足を止めた。
足元は十m程度の崖となっている。
「これって……」
リンの呟きにアンリも息を飲んだ。
眼下に広がるのは対岸が見えないほど大きな湖と、そのほとりに真紅の花をつけた巨木であった。
艶かしいほどの赤い花は、月明かりに照らされて、妖艶に咲き誇っていた。
その圧倒的な美しさと存在感は、遠目からも息を呑むほどであった。
「先ほどの老人が言っていた場所……でしょうか?」
「でも、あの話では白い花を咲かせる木だって言っていたのに……」
「老人の見間違いということもありますね。」
「とにかく、あれが例の木ならばこの近くに村があるはず。」
「そうですが……今はイシューを追うのですよね。」
「そ、そうだった!!」
目的を思い出し、闇に目を凝らすと木々の間から少女が出てくるのが見えた。
少女は森を全力で走って逃げているが、空を飛ぶイシューの早さに敵うはずも無く、その差はじわじわと縮まっていく。
やがて、少女はリンの立つ崖まで追い詰められてしまった。
「こんな夜更けに、何やってるのよ!」
「リン!!」
リンは苛立たしげにつぶやくと、アンリの静止も聞かずにその身を崖から躍らせた。




