岐路(2)
殊のほか2段目の車列が粘る。速度が上がらぬ間に3段目が先行し、1段目は鉄馬の尻を猛然と押し上げる。黒塗りは3段目のさらにその先だ。切り返すには時間も距離も足りない。
突破する。男は口中に呟き、ギアをシフトダウンさせた。指先が繊細に動き、一時切られたクラッチは回転数の上昇したエンジンと再び噛み合うことで瞬発の加速を生み出す。
〈提案します。後方からの突破が現実的です〉
却下だ。可能でも却下だ。
〈承知しました。私の記憶と現在の目測から最も期待できる経路を算出します〉
急げ。加速したマシンが出遅れた2段目の車両と並んだ。車内からはアサルトライフルの銃口が覗く。男は車体を低く倒し、その銃口が目視の照準で手こずる間にヘッドライトの方角から接近、相手の車体そのものを盾にして、すれ違いざまにハンドグレネードを投げ込んだ。銃弾が眼前を飛ぶ。
「邪魔をするなら皆で死ぬぞ!」
爆散。火炎の塊が置き去りになった。最前列では大型トラックが正真正銘の壁を作ったようである。ユナは嘆いた。
〈完了しました。状況の推移に伴い、改めて後方からの突破を推奨します〉
馬鹿にするのも大概にしてくれ。追い来るフロントガラスにSIG SAUER P320の弾丸を荒く撃ち込み、男はそれでも加速をかける。装弾4、残弾2の擲弾が男の操作によって外付けの発射器から射出され、数百メートルの滑空ののちに着弾した。路面を抉る爆発はセダンタイプを空中に放り上げ、壁になったトラックの横っ面へ裏返しに落下させた。再計算だ。さあ!
〈完了しました。挙動を肉体へフィードバック〉
正解だ。いくぞ。
〈グレネード、弾体貫通後に起爆セット。射出。最大加速。前輪引き上げ。爆発を受け、セダンを踏み台にします〉
待っていろ、もうすぐだ。黒い稲妻が空を走った。




