監視
「では、事態の収拾は私に一任していただけますね」
男は一音一音、有無を言わせぬ声色で台詞を読み上げた。その両耳にボルト固定された通信装置の繋ぐ先で、妹尾勤堂が諦めたように応じた。
(ああ、いいとも。僕は裏方かつふたりの傀儡だからね。こうして本部で踏ん反り返ってるだけのお飾りさ。査察さえ順調なら、現場の意向には口出ししないよ)
「鎖巻竜吾もこちらへ回していただけると」
(構わない。これまた随分と念入りなことじゃないか。灰島が絡んでいるが、私情で下す判断ではないんだろう? 君に限って)
「私情は道化が持ち去ってそのままです。彼の罪を救い上げるのは私でしょうが、その随喜は個人的な感情によってではなく、先生という形の真理によって齎されます」
(4人のジャックも同意見なのかい)
「かつて存在した道化の詐病です。もう私の中にジャックはいません。会長はご存知でしょう」
(すまない、そんな気がしただけさ。――さてと、経営者の脱線に付き合わせることもあるまいよ。僕はもっと手頃な慰み物を探すから、君は君の仕事に戻るといい)
「お気遣いありがとうございます。次の報告は良い物となるでしょう」
(任せたよ)
男は特定の記号を念じ、瞬時に通信の対象を切り替えた。また同時に、侵入者が敢えて残したと思われるデータコピーの痕跡を探る。ディスプレイには黒い男の映像。数日前まで死体の転がっていた監視室に、キーボードを叩く音が響いた。
「そうです。オービスの件は放置しなさい。方策でどうこうできる問題ではありません。あなた方はこれまで通り、私たちの眼となって執行官を追えば良いのです。カメラがコンビニエンスストアと故郷の市街地で執行官を捉えているのなら、協力者を特定することも必要です。双方の動向を急ぎ把握し伝えなさい。執行官は私が誘導し私の筋書きで私が回収します」




