第11話:ファンタジー世界で酔っ払うだけの話
なんかグダグダ描いてたら結構な文字量になっちゃった。
おつまみの描写とか、もう少し入れた方が良かったかもしれない。
あと、更新が若干遅れ気味になったのは艦隊これくしょんのせいではない。これだけは、はっきりと伝えておきたかった(馬鹿提督並感)。
年に一度あるかないかの、男くさい話。
このダンジョンは、三つの世界に繋がっている。
そのうちの一つ、アリアちゃんやリチャードの出身地である『シャンバラ』は、典型的なファンタジーっぽい世界観で、剣と魔法で構築されている。
そして……ここが一番の特徴だと個人的には思うが『シャンバラ』は滅茶苦茶広い。
王都と付く都市がいくつあるのかすら、分からない。
いくつの種族が住んでいるのかすら、分からない。
もちろん魔王や勇者が跋扈し、戦争もたくさんあるのだが、そんなもんは全体から見れば『些細な出来事』と言っても差し支えないくらいに、世界が広い。
だから、たまにこんな挑戦者がやって来る。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「せやああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
第一階層、第二階層を突破した挑戦者は、第三階層にて正攻法を挑んでいた。
正攻法も正攻法……宝貝で武装し、全力を出したアトラスの旦那と真っ向から打ち合うという、僕なら絶対に避ける対決に、猛然と挑んでいた。
挑戦者の姿は、普通の男性のそれだ。
旅装束に頑丈そうなブーツ。ぼさぼさでくすんだ灰色の髪に、荒んだ目つき。
しかし……その左腕が、異形だった。
半龍態のザッハークを思わせる、爪の生えた異形の腕。その表面にびっしりと生えているのは桃色の龍鱗である。
対する、アトラスの旦那は純白の鎧『三魂骸』とアトラスの旦那の身長ほどもある肉厚かつ長大な剣『陰陽真剣』。そして左手に持った『大極鏡』という盾で武装している。
いずれも、劣化コピーなどではない、ニーナさんが作成した傑作の三つである。
「ぬぅん!」
「おらぁ!」
アトラスの旦那が振り下ろした宝貝『陰陽真剣』を、挑戦者は左腕で真っ向から受け止める。
その一撃の重さ鋭さは尋常ではない。受け止めた挑戦者の踏みしめた地面に罅が入るほどの威力である。本来なら防御力など無視してしまう一撃を、挑戦者は耐えている。
一撃どころではなく、既に三度の攻撃を、この挑戦者は耐えている。
かわしきれないはずの剣舞の嵐をかわし切る技術もさることながら、その防御力も並大抵ではない。下手をすると……このままダンジョンを突破されかねないほどに。
不意に、挑戦者は距離を取った。アトラスの旦那の剣が届かない距離まで、跳んだ。
「はぁ……ったく。世界ってのは広いなァ。散々旅をしてきたつもりだったが……まさかこんな果ての地にこんな化け物がいるとは……」
「化け物ではない。巨人族筆頭、アトラ=グル=ジルコンだ」
「化け物だよ。その体格にその筋肉で、その速度と身の軽さが維持できるのがおかしい。……まぁ、剣と魔法の世界に今更期待なんざしちゃいねェがな」
にやりと、挑戦者は笑う。
深く、深く、深く、どこか泣いているかのように……悪辣な笑顔を、浮かべた。
「いいな。スゴクいい。俺はつくづくラッキーだ。これでまた探しやすくなる」
「探し物でもしているのか?」
「女を探している。この左腕と同じく、桜色の龍鱗を持つ、龍種の女だ。元々は『シャンバラ』で魔王をやっていたんだが、罰が当たってどこかに連れ去られた」
「……悪いが、知らんな」
「そうか」
アトラスの旦那の返答に、挑戦者は苦笑いで応えた。
諦めた人間の、慣れた笑顔。幾度となく挫折を突きつけられてなお、諦めるに至っていない……僕とは真逆の開き直りが、そこにある。
どんなことに手を染めても、取り戻さねばならないものがそこにある。
目を閉じ、開いた時、そこにあったのは人間の瞳のそれではなく……ハ虫類が餌を見た時のような捕食者の瞳だった。
「タツヤ=ナガト……参る!」
そして、名乗ると同時に一歩でアトラスの旦那の懐に飛び込んだ。
「むっ!?」
アトラスの旦那は一歩下がり、最短最速で『陰陽真剣』を横薙ぎに払う。
挑戦者の右側からの一撃。必中確実。避けられない一撃。挑戦者は哀れにも、上下に両断され……。
両断される寸前に、剣が宙に舞った。
アトラスの旦那ほどの実力者が剣を落とすわけがない。弾き飛ばされたのだ。
旦那の膂力を越え、剣を弾き飛ばすほどの一撃。あまりの衝撃に挑戦者の足から血が吹き出るほどの威力を秘めた震脚と共に放たれた、右拳での一撃だった。
自分の身を省みない防御。右腕を捨てて、挑戦者は笑った。
「獲ったァ!」
放たれる左腕。絶対不可避の一撃に対し、旦那は獰猛な笑顔を浮かべた。
爪がアトラスの旦那の鎧に突き刺さると同時に、ゴキリと鈍い音が鳴る。
避けられないと判断したアトラスの旦那は、龍の腕が自分を貫通する前に、その腕を間接技で破壊したのだ。
「ぐっ……がっ」
「その腕だけは特別のようだが、ニーナの鎧は貫通できまい!」
「ハッ、ニーナってのはアンタの嫁か? ……嫁自慢なら負けねぇぞコラァ!」
まるで龍のごとく咆哮し、挑戦者は砕けた足でアトラスの旦那の頭を蹴り飛ばす。
正確には頭ではなく……顎だ。その一撃は一瞬ではあるが旦那の頭を揺らす。ほんの少しだけできた隙を逃さず、挑戦者は折れた腕を引き抜く。
そして、折れた腕を無理矢理動かし、旦那の首筋に爪を突き刺した。
「ぐっ!?」
「鎧のない部分まではフォローできねぇだろ! 俺の嫁の腕を舐めんなァ!」
「はっはっはァ! いいぞ、お前のように骨のある挑戦者は久しぶりだ!」
「楽しんでもらってなによりだ! んじゃ……そろそろ終いにしよ……う?」
「ん?」
呆気に取られた挑戦者の視線を追って、アトラスの旦那は視線を逸らした。
その視線の先には……殺る気満々の、旦那の奥さんがいた。
「疾っ! 惨殲飛刀!」
『あっ』
かくて、なんの躊躇もなく、ロマンもなく、男どもの意地を置き去りに。
今回の挑戦はここで終わった。
挑戦者の名前を、タツヤ=ナガトという。
長門辰也と読む。僕と同じく『ワールド』出身。話を聞いた限りでは『シャンバラ』の『ドラゴンズ・ピーク』という地に召喚され、そこでなんやかんやあったらしい。
深くは聞かなかったが、たぶん自己を変革させなければならないなにかが。
開き直らなければならない事態が、起こったのだろう。
「がっもがもがっ! ふぐっ……んぐっんぐっ……がふがふっ!」
同じ世界出身ということで少しだけ第一階層で話を聞くことにした。
腹が減ったと言われたので、とりあえず量のあるご飯を用意したのだが、今のところは不満はなさそうである。
がつがつと唐揚げを頬張り、里芋の煮っ転がしを貪り、喉を詰まらせて麦茶を飲む。
心底嬉しそうに白飯を頬張り、味噌汁を飲んでいた。
「うめぇ! やっぱり故郷の飯は最高だな! あ、カイネ。おかわりで」
「よく食うね」
「そりゃ白飯と味噌汁なんざ滅茶苦茶久しぶりに食ったしな……。地域にもよるが、『シャンバラ』の飯は、旨いんだけど薄いんだ」
「ああ、それは聞いたことある。確か塩の大量精製がしづらいんだってね」
「あとは調味料関係が『ワールド』に比べると微妙なんだよな。発酵とかそのあたりの技術は都心部じゃ未発達らしい」
「ダンジョンから『ワールド』に戻れるから、飯ならそこで食べてもいいんだよ?」
「あそこの宿、俺の後輩の暗黒小僧が入り浸ってるからあんまり行きたくねぇんだよな……。今のこの姿を見られたら確実に、精神的に殺される」
「………………」
世界は広いが世の中は狭い。知り合いの友達は、意外なところで見つかったりする。
顔だけ見せに行った方がいいんじゃないかとも思ったが、あえて口を閉ざした。
知己の顔を見たら心が折れてしまうかもしれない。そういうことを危惧した。
「しかし……こんな最果ての地にもいねぇのかよ。どこに行ったんだか……」
「嫁とか言ってたけど、奥さんなの?」
「うーん……かなり最低な話だが、俺が内縁の夫って感じだな。奴隷扱いで人間の領域に労働力として召喚されて、嫁に拾われたんだが……色々あってお互いに好き合ってたとは思うんだが、告白の返事は聞いてない……恥ずかしがって教えてくれない……いやまぁ、それは嫁の話で、あとの二人からは聞いてるんだが」
「おい! なんか最低の発言が聞こえたぞ!」
「姉と妹と家臣が殺し合い寸前まで発展したんだから仕方ないだろ。黙って故郷に戻ろうとしたら泣かれるし。どうしろってんだよ……」
辰也は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。
ザッハはわりと貞操観念の強い方だが『シャンバラ』の龍はどうなのか……その辺を問い正すと、話の藪から蛇どころか龍が出そうな気がしたので、あえてなにも言わない。
苦労は他人には分からない。分からないけど共感はできる。
僕はハーレム系主人公の苦労など分からないけど、苦労したことに共感はできる。
「ダンジョンの最下層まで到達できれば、お嫁さんの場所が分かると思う」
「いや、ここまでで十分だ。これ以上は時間の無駄になる。第三階層を突破できれば、恐らくこのダンジョンは突破できるが、嫁に移動されたら無意味になるしな」
「……そりゃ良かった」
少しだけ安心する。
長門辰也。彼は『善良』な人間だ。少なくとも彼が貯め込んだ罪業程度の『サブヒロイン戦鬼』では、彼が積み上げたものに対抗できまい。
そんなことを考えていると、辰也は不意に、見てはいけない方を見た。
部屋の隅で膝を抱えて座っている。大きなオッサン……アトラスの旦那を見た。
「ところでさ……巨人のオッサン、大丈夫なのか?」
「あんまり大丈夫じゃないかも。旦那と真正面から戦える人ってそういないし、正々堂々相手を打ち倒すことが、旦那の故郷じゃ誉れとされているからね」
「でも、第三階層のボスって夫婦なんだろ? 夫婦二人で成し遂げた勝利ってやつじゃないのか?」
「辰也は前向きだねぇ」
少しだけ考えて、肩をすくめて息を吐いた。
「アトラスの旦那は強い相手と真正面から戦いたい。ニーナさんは旦那を危険に晒したくない。価値観がこの辺で相対しているんだよね」
「あー……気持ちは分かる。すげぇよく分かる。俺の嫁もそんな感じだな」
「そうなの? 龍って自分勝手で思いやりに欠ける生き物だと思ってたけど」
「だからこそ、だな。自分勝手だからこそ、情を移した相手にはとことん尽くす性質なんだよ。もちろん個体差はあるけど、基本的に寂しがり屋だしな」
「……ものすげぇ説得力だ」
龍みたいな生き物を推定三人も嫁にしているような男は、言うことが違う。
まぁ、嫁が複数人いる時点でわりとサイテーなのは言うまでもないけど、『ワールド』出身でアトラスの旦那と互角以上に戦えるなんて、尋常ではない。
尋常ではない、酷い目に遭ってきたのだろう。
「いっそのこと、第三階層は巨人のオッサンに任せたらどうだ?」
「あ、それは却下で」
「ひっでぇ! 即答かよっ!?」
「狩りやすい物理馬鹿が一人で戦いたいとか、フロアボス舐めてんのかって感じだし」
「物言いがキツ過ぎるわ! 巨人のオッサンは物理馬鹿ってわけでもねぇだろ!?」
「そうなんだよね……。旦那、スキル的にはファイターよりレンジャー寄りだし」
「れんじゃあ?」
「白兵戦でも十分強過ぎるんだけど、本来は遮蔽物の多い所でのサバイバル戦やらせたらマジで右に出る人がいないんだ」
「あれで本領発揮じゃねぇのかよ……信じられねぇ」
「ただ、旦那はわりと単純だから、殴り合いを求められて毒ナイフで刺された経験は一度や二度じゃないし、そうなるとニーナさんも警戒するし……今のこの状況ってのは、最強の布陣に見えて実際はお互いの妥協点みたいなところがあるんだよね」
「……まぁ、異性と付き合うってそんなもんだよな。楽しいことばっかりじゃねーし」
沈痛な面持ちで、しかし納得したような表情を見せる辰也だった。
なんというか、僕とは違って大人の発言である。
年齢的には旦那より少し若い程度、僕と似たような年頃っぽいので、もう少し希望に満ち溢れた青少年らしい意見が欲しいところだ。
僕が煎れた熱いほうじ茶を飲みながら、辰也は不意に僕の方を見る。
「カイネはどうなんだ?」
「どうって?」
「付き合ってる女とかいるのか? 同郷としてはちと気になってな」
「いないしいらない。諸事情あって、お付き合いとかは無理だからねぇ。本音を言えば、誰でも良いから付き合いたいけど」
「……巨人のオッサン。この無難な回答を聞いて、どう思う?」
「俺はオッサンじゃない。お前らから見れば少し老けて見えるかもしれんが、巨人の中じゃかなり若い方なんだぞ」
居間の隅で体育座りをして拗ねていた旦那だったが、話を振られて少しだけ気分を持ち直したのか、普通にあぐらをかいた。
「そうだな……俺としては、カイネのような器量良しがそのような非生産的な信念を貫いているのは不本意だからな。俺の弟子を婚約者としてそのうちくっつけようと画策している。少なくともアナスタシアやザッハークやカンナやキィよりはずっと良い女だぞ」
「おい、ちょっと話を聞いただけで女が五人も出てきたぞどういうことだ死ね」
「旦那が勝手に言ってるだけだし、他の四人は同僚と雇用主だよ!」
「やべーよ。ギャルゲーでいうと幼馴染、転校生、学級委員、不良娘、先生までコンプリートしてる状態だよ。ハーレムルート確定だよ」
「初対面の人間にこういうこと言うのは気が引けるけど、嫁を残してどこかで野垂れ死んだ方がいいんじゃねぇかな!?」
「異世界に行ったらモンスター娘たちとイチャイチャできました♪」
「異世界成り上がり系ラノベのタイトルっぽい表現はやめろォ! イチャイチャしたことなんてあんまりねぇよ! ぶっ殺すぞ!」
「まぁ、実際『ワールド』の貧弱坊やが『シャンバラ』みたいな異世界に行ったら即死すると思うわ。俺なんて奴隷スタートだし、生水を飲んで腹を壊して死にかけたし、アレルギーも出たし、寄生虫とか色々大変だったしな」
「……夢も希望もなく生々しいなぁ」
いや、正直なところ、僕もお腹は壊したけどね。師匠に頼んで飲み水に関しては気を使ってもらっているから今は大丈夫だけど。
異世界に行くタイプの主人公には、文化圏や世界観の変更ごときに負けたりしない胃腸の強さが求められるらしい。あとは権力者に拾ってもらえる豪運、どんな環境にも対応できるコミュ力、チートクラスの特殊能力が一つあると、異世界でもわりと平穏に生活できるような気がする。
もちろん、そんな都合の良い話が転がっているわけがない。現実は非情である。
都合の良い話に乗っかり、散々な目にあった主人公気質の長門辰也は、腕組をしてなんだか納得いかないような表情を浮かべていた。
「んー……絶対おかしいよな。同級生とか同僚とか、普通口説くよなぁ」
「だろう? 助けた姫とか普通に口説くよな?」
「おい、そこの主人公と英雄の色ボケ馬鹿二人。いい加減にしないと本気でしばくぞ」
「男は色ボケててなんぼだろ。どんな事情があるのかは知らんけど、普通なら女の子と遊びたいじゃん? 手を繋いでデートとかしたいじゃん?」
「……いや……うん、まぁ……そういうのは、いつもやっているので、遠慮します」
アナさんとか普通に手を繋いできて、毎度のように心臓がピンチになるし。
僕がぼそっと呟いた一言に、辰也はなぜか激昂した。
「お、お前……いくらなんでもモテ過ぎだろ! 元キモオタのガンプラ&フィギュアマニアの俺に喧嘩売ってんのか!?」
「知るかァ! モテてねぇし嫁がいる奴がそういうことを言うな!」
「拉致された先で誘惑されたから接着しただけですぅ! 妥協じゃないし後悔は一切ないが、望郷だのなんだの、多少思うところはないでもないからな!」
「接着先があるだけでありがたいと思えよ! 僕らはこの巨人の旦那みてーにモテねぇんだから選択権なんてねぇんだよ!」
「このオッサン、モテるのかっ!?」
「モテモテっすよ。僕は実は罪業値で強化される隠しボスなんだが、この旦那と相対する時は最強になるもん。やっぱり男は筋肉っすよ、筋肉」
「筋肉のくせに最後に選んだのがロリババァとか……業が深いな!」
「お前らちょっと表出ろ!」
「表に出ろ……おい、旦那の今日は旦那の奢りだぞ。心して食え!」
「ありっす! さすが筋肉先輩、太っ腹っす!」
「……なんで俺が奢る流れに……いや、もういいか……とりあえず、ニーナに対する暴言だけは謝ってくれないか?」
『ごめんなさい』
はしゃぎ過ぎた『ワールド』出身の馬鹿二人は、旦那に誠心誠意頭を下げた。
こんな感じで、よく分からないまま、僕らは飯を食いに行くことになった。
「緊急事態よ!」
「…………はぁ」
世の中は、いつだって二つのタイプに分けられる。
ある者とない者。持つ者と持たざる者。0と1。大体そんな感じの表現で使われる。
例えば、散々落ち込んでさっきまで膝を抱えて座っていた女が、唐突になにを思ったか私をつかまえて、とある酒場に連れ込んでそんなことを叫ぶ……そんなことは、常人にはできない。普通なら異常事態が続いたら頭が真っ白になってしまうものだ。
困難に立ち向かい、気持ちを一瞬で切り替えられる。
最速で行動でき、痛みを恐れない。
言い方を変えるなら、全く懲りず、悪びれない。
結局は自分自身から湧きあがる衝動が、自分の欲望が一番大切なのだと本人だけが気づいていない。あるいは、気づいていながら見て見ぬふりをしている。
そう……私をここまで引っ張ってきた、仙人の彼女のように。
「カンナちゃん。だーりんが馬鹿どもとご飯を食べに行くらしいの。これは本当に由々しき事態だわ」
「……いえ、言っている意味がさっぱり分かりませんが」
「男の子が複数人でご飯を食べに行く……これはつまり、ナンパの図式なのよ! 男の子は複数人集まって調子に乗ると、ナンパをする生き物なの!」
「…………はぁ」
いや、ナンパでもなんでも、したければすればいいんじゃないだろうか?
思っていることが思い切り顔に出たらしく、ニーナは眉間に皺を寄せた。
「だーりんみたいな良い男がナンパしてきたら、並の女ならほいほいついて行くに決まってるじゃない! カイネくんはどうせふられるだろうけど!」
「全員ふられると思いますが」
「だーりんに魅力がないっていうの!?」
「なんでキレるんですか……魅力とか知りませんよ。私はそもそも筋肉質な男性はちょっと苦手ですし」
「……カイネくんはああ見えて結構男の子らしい体格してるよ?」
「なんであの男の話が出るんですかねぇ……」
男の子らしいのは知っている。膝枕がちょうどいい塩梅なのもわりと知っている。
が、恋愛感情があるわけがない。あってたまるものか。
「毎回、アホみたいに、口を酸っぱくして言っていますが、胃袋から財布の紐までがっちり握られた状態で逃げられる男はいません。心配するだけ馬鹿を見ますよ?」
「馬鹿ならもう千回以上は見てるから、大丈夫!」
「………………」
「汚物を見るような目はやめて! 心が折れちゃう! ……あ、ここの店に入ったみたいね。少し離れて様子を見ましょう!」
「……やれやれ」
元気な仙人だ。仙人なら元気さや欲望はどこかに置いて来て欲しい。
そんなわけで……私ことカンナ=カンナは、うやむやのうちに浮気(未遂)調査をするために『シャンバラ』までやって来て、興味のない対象を観察する羽目になった。
並外れたマゾヒストでも興味のないことはしない……つまり、これはどの業界でも拷問なのだ。
男三人の選んだのは、シャンバラではよく見る酒場だった。
バーカウンターに複数のテーブル。冒険者やら常連やらで賑わっている店内。常連らしき男たちは大笑いしながら木の杯に注がれた酒を楽しんでいるらしい。
掲示板に張られているのは冒険者を募る広告で、何人かの冒険者はマスターと交渉している。
鼻をくすぐるいい匂いから察するに、どうやら料理の味に定評のある酒場らしい。
男三人を見かけ、若い女性店員が近づいて来た。
「あ、カイネじゃん! ご無沙汰だったけど、なにしてたの?」
「ソフィアさん、誤解を招くようなことを言うのはやめて。三日前に来たばっかりだし、こっちのでかい旦那の奢りで、飯を食いに来ただけだから」
「へぇ、奢り? じゃあ、上から高い料理三つと、ビアのジョッキ三つでいい?」
「さりげなく酒を混ぜるなよ……前回飲み比べで勝ったから、もう酒は勧めないって約束だったろ?」
「そうだったっけ?」
「ほほぅ? 今度の勝負はベッドの上でも一向に構わんのだけど?」
「それはお断りします」
「つれないなぁ……それじゃあ、今晩どう? お店が終わった後で、食事でも」
「えっと……カイネ。ウチに来る前に酔ってる?」
「僕は酔ってないし、これから酔うんだよ……とりあえず、ビア三つで」
「もう! 結局頼むんじゃない!」
「ここのビアは薄くてちょうどいい塩梅で、僕としては結構好き……痛ってぇ!」
龍腕の男に無言で蹴られ、アトラスに襟首を掴まれて奥の座席に引っ張られていく馬鹿が一人。ざまぁみろである。
あの男、仕事や私事に関係ない女性を前にするとわりと軽薄になる。
「おい、カイネ。なにいきなり口説き始めてんの? モテ男の反射行動なの?」
「挨拶みたいなもんだろ! あんな雑な口説き文句があるかァ!」
「……オッサン。今のはどう思う?」
「雑なのは確かだが、カイネの言葉は親密度というドロを城の中に流し込まれているようなものだ。女性側にしてみればハマったら抜けだせなくなる」
「粘着質だな!」
「ソフィアさん。一番高い酒、ボトルで二本追加ね」
「待て! それはニーナに怒られる!」
ニーナから聞いたが、アトラスの財布の中身は小遣い制らしい。
英雄らしく豪放に生きて来たアトラスだが、どうやらお金の管理には疎いようなので、少しずつお金を預けるスタイルにして、お金の重要性を認識させたいとのこと。
亭主というより『正しい子供の育て方』だと思う。
運ばれてきたジョッキを持ちあげ、三馬鹿は乾杯をした。
「んぐっんぐっ……ぷはーっ! うめぇ!」
「味が薄いような気がするが」
「じゃあ、旦那のジョッキには『ワールド』産のすごく濃いやつをどうぞ」
「やめろ。頼むからやめてくれ。巨人が酔い潰れる品を軽々しく飲み物に入れるな! 前回は口当たりの良さに騙されたが、今回はそうはいかんぞ!」
「旦那、腕が痛い。折れる。折れちゃう」
などという、当たり障りのない、男の子らしいやり取りをしながら、運ばれてきたナッツを口に運ぶ三馬鹿である。
うん……なんていうか、普通だ。
ソフィアと呼ばれた店員に蜂蜜酒と適当なおつまみを注文し、私は息を吐く。
「ダンジョンに帰ってダラダラしてた方が百倍ましですね」
「まぁまぁ、ここは私の奢りだから」
「それはありがたいんですが、ニーナの手製のものや『ワールド』のものと比較すると、どうしてもパンチが足りないというか、ぶっちゃけてしまうと薄いんですよね」
「まぁ……お酒はね」
カイネさん曰く『お酒の元になる原料の精製が未発展なせいだね』とのこと。
実際、私がこうやって飲んでいる蜂蜜酒や彼らが飲んでいるビアは『酔える成分』がとても薄いらしい。しかし、それはそれで何杯も飲めて楽しめるとも言える。
『何杯も飲ませるために水を入れているんだよ』と、あの男は言っていたけれど。
しかし、私みたいな『アビス』出身者や種族的にお酒に強いアトラスには、少し物足りなく感じてしまうのも、事実だ。
ぽりぽりとナッツを齧っていると、不意にニーナはぽつりと言った。
「そういえば、カンナちゃんってカイネくんのことどう思ってるの?」
「どうって……まぁ、色々思うところはありますが、基本的には信用はしていません」
「男の子としては意識してないってこと?」
「あの男のどこをどう意識しろっていうんですか? 無茶振りが過ぎますよ」
「優しいところかな?」
「優しいだけの男はどこの世界でも受けが悪いと思うんですがね……」
「優しいのは認めちゃうあたり、カンナちゃんって結構素直だよねぇ」
「……ぐ」
ぐぅの音が出なかった。
私の反応を見て、ニーナは苦笑を浮かべる。
「まぁ、ウチのだーりんには爪の先ほども及ばないけどね!」
「全ての対話を旦那自慢に繋げるのはやめろって言ってるでしょうが!」
「カンナちゃんだって飼い主自慢とかしていいんだよ?」
「飼い主? 飼い主ってもしかしてあの男のことを指してますか? もしそうなら今ここで殺し合いに発展しますけどよろしいでしょうかねぇ!?」
「休日のあの有様は、飼われてると表現されても仕方がないと思うの」
「……あの現象さえなんとかなれば、もっとしっかり生きられます……ニーナの作る薬とかでどうにかならないんですか?」
「なるよ」
「…………え」
「どうにでもなるけど、こればっかりはねぇ。生活スタイルとか、生き方とか、その辺を根治治療しないと延々と薬に頼る羽目になるから薬は処方できないんだよね」
「どうにかなるならどうにかしたいんですがねぇ!?」
「私は延々とカンナちゃんの面倒を見るつもりはないし、だーりんの世話で忙しいし」
「ほんの少し症状を緩和するとかはできないんですか?」
「その発想が出てくることそのものが『症状の緩和』と言い換えてもいいかもね」
「へ?」
「焦らなくても、ちゃんと良くなってるよ。昔のカンナちゃんなら『一刻も早く治したいから薬を寄越せ』くらいは言ってたことだし?」
「………………」
アトラスのことが絡まない限り、この仙人の言うことは真っ当だ。
なんとなくはぐらかされたような気がするけど……まぁ、ここは信用しておこう。
何回でも繰り返すけど、この仙人はアトラスが絡まない限りは真っ当なのである。
話題が途切れた隙にちらりと三馬鹿の方を伺うと、なにやら面白くもない話題で盛り上がっているようだった。
「俺はおっぱいは大きい方がいいと思うんだ。カイネはどうだ?」
「胸は比較的どうでもいいなぁ……」
「オッサン、こいつ嘘吐きだぞ!」
「そうだな、嘘はいかんぞ。ちなみに俺は小さい方が好みだ!」
「力説するほどの拘りはねぇってだけだから! ぶっちゃけると女性の胸ならなんでもいいよ! そのくらいには好きだよ!」
「はっはっは、馬脚を現したな! じゃあ身長はどうだ? 高い方か低い方か。俺は自分と同じくらいの身長が好みだけどな」
「身長も心底どうでもいいなぁ」
「……カイネ、もしかして節操とかないタイプ?」
「節操なしとか人聞きの悪いことを言うなや! 旦那や辰也みたいに、これがいいって感じの好みはねぇんだよ! あえて言うなら女性っぽい女性が好きなだけだから!」
「マゾなんだな」
「サドかもしれんぞ。女性の挑戦者の時は張り切って壊滅させるからな、カイネは」
「……僕ってそういう目で見られてたんだ……なんかちょっと死にたくなってきた」
自業自得である。私にそう思わせる程度には、あの男の素行は良くない。
第一階層のトラップから切り札に至るまで、真っ当や真っ向といった要素が一つもないのが主な要因だろう。
あと、女性の冒険者の時は張り切って壊滅させるというのも、合っている。
男の冒険者の時は、張り切って心からへし折っていくスタイルだけど。
「男って、なんであんなに下らない話で盛り上がれるんでしょうねぇ……」
「種の保存は生物としての第一条件だから、下らないように見えて彼らは実際はとても真剣な話をしているんだよ」
「アトラスの好みが自分に合致していると分かるってご満悦ですか?」
「基本的に、男の子っておっぱいはあった方がいいって言うし! す~ぱ~ぷよぷよ~んを常に揺らしているカンナちゃんには分からないかもしれないけども!」
「なんですかその奇怪な表現は! 言い方も含めて殺したいほど腹立ちますね!」
「私が思うに、むしろ女こそ下らない話で盛り上がるべき! 建設的な話なんてクソくらえよ! 女性は他人事の恋話と他人事のトラブルが大好きなんだからね!」
「……まぁ……うん、確かにそうですけどもね……」
「で、この際聞いておきたいんだけど、カンナちゃんの好みってどういう人?」
「どういう人って言われましても……」
ぱっと思い付かない。経験がそこそこあるのなら、自分の好みのパターンも把握できるのだけれど、恋愛絡みの経験値が漫画と小説とゲームくらいしかないのだ。妄想や空想でしかなく、しかも『ワールド』のコンテンツが大半だから、明らかに偏っている。
言い淀んだ私を見て、ニーナは微笑んだ。
「ちなみに、私がだーりんを好きな理由はたくさんあるんだけど……」
「また惚気ですか?」
「一番の理由は、私を一番に置きながら、ちゃんと周囲のことも考えられる人だから」
「………………」
「なんてね♪」
ニーナは照れ隠しのようにはにかみ、店員に料理を注文した。
やっぱり惚気じゃないですか。そんな風に思ったけど、口には出さなかった。
正直に言えば……なんだか、とても、ものすごく、羨ましい。
幸せそうで、羨ましい。
「……まぁ、いいんじゃないですかね……」
ぼやくように呟いて、私は運ばれてきた魚料理に手を付ける。
幸せそうで羨ましい。確かにそれは私の本音だ。偽らざる……本性だ。
でも、同時にこんなことを思っている。
「ニーナ。一つだけ、つまらないことを教えてください」
「ん?」
「誰かを好きになるって……どうすればいいんですか?」
「自分を好きになるコト。自分のことが全部嫌いなままじゃ、誰かに信頼を置くことなんてできないからね。だから、少しでも『なにか』をすること。なにかができた自分を少しでも褒めてあげること。敵だらけのこの世界で、自分だけは自分の味方なんだから、それを忘れちゃいけないわね」
「…………はい」
素直に頷いて、私は息を吐く。
彼女から見れば、私はきっと子供なのだろう。与えられたものを吸収できず、できないできないと喚いている、子供だ。
それでも、少しだけ頑張ってみようと思った。
ほんの少しだけ、頑張って生きてみようと、思えた。
かつて、一つの戦いがあった。
それは世界の存亡を巡る戦いで、長門辰也はその中で微妙な立ち位置にいた。
裏切り者で、コウモリ野郎で、敵と味方に良い顔をしていた。
借り物の力で戦って、自分は悪くないと言い訳しながら、正義の味方になったふりをして、いつ裏切ってやろうかとびくびくしていた。
辰也の中にはなにもなかった。正しいものなんて、これっぽっちもなかった。
だから……結局、最初から最後まで『仲間』にはなれなかった。
向こうがどう思っていたか……そんなものは考える余地もなく『戦友』と思われていたに決まっているが……辰也だけは、彼らの仲間になっていなかった。
正義の味方には、なれなかった。
『なにふざけたことをほざいてんのさ? 辰也さんは僕らの仲間だし、あなたがいなかったら最後の戦いで僕らは全滅していた』
仲間と決別した後、祝勝会にも参加しなかった辰也に向かって、真っ黒な少年は心底不満そうな……彼にしては珍しい子供らしい表情を浮かべて語った。
『気持ちはよく分かるよ。分かり過ぎるほどに分かる。でもさ、結局のところ、辰也さんは自分自身っていう絶対正義を裏切れない人なんだよ』
そんな人間はたくさんいるだろうと、その時は思っていた。
異世界に飛ばされて、一年が経って……考え方は少しだけ変わっていた。
「なぁ、カイネ」
「んー?」
ほんのりと頬を赤く染め、少しだけ酔っ払ったような彼は笑う。
第一階層のボス。カイネ=ムツと名乗る青年。強くもなく脆くもなく。弱いと断言して問題ないが、泥のように執拗で粘土のように柔らかく、強靭だ。
そんな彼に、問いかけてみる。
「お前、元の世界に戻りたいとは思わないのか?」
「ないねー」
「……ないのか」
「戻る理由も場所もないからねェ」
「………………」
さらりと吐かれたそれは、重い言葉だった。
自分がいた場所に戻りたい。それは、元いた場所が『良い所』だったからだ。
辰也が二の句を告げられずにいると、アトラスが割って入ってきた。
「うむ、それなら俺の里に来い。姉と妹が相手を探していてな」
「お断りするっつってんだろうが」
「お前はなんで女絡みの話になると異様に強気になるんだ……。辰也、お前の周囲にいい女はいないか? 男の趣味が悪くて、カイネを説得できそうな、強情な女がいい」
「心当たりはあるけどよ、全員別の男と接着済みだよ」
「心当たりがあるのか……凄まじいな」
「まぁ、こーゆーのはその場の流れとかもあるからな。いくらカイネが拒絶しても、どこかで腹をくくらなきゃいかんこともあるんじゃねーの?」
「流れをそれとなーく逸らしていけば、恋愛対象からは外れるし、僕みたいなクズは論外なのサ。女の子はいつでも現実的で打算づくで夢見がちで可愛いからねー」
「………………」
その辺の機微は、辰也には分からない。分からないまま腹をくくる羽目になった。
ぼんやりとした表情だったが、カイネの目は淀んでいた。
どこかで見たことのある目。知っているだけで四人。一人は真っ黒な少年で、一人は背の高い年上の女性で、一人は魔法使いで……一人は、桜色の鱗を持つ龍だった。。
全員が全員、なにか大きなものに対して負い目を持っていた。
世界だったり、周囲だったり、自分自身だったりと、どうにもならないほど肥大したコンプレックスを抱えたまま、決然と生きていた。
辰也はそういうモノを見ると……なんだか、背筋がざわざわする。
強大なコンプレックスに押し潰された人間は、優しくて悲しい目をしている。
見捨てることができない優しさ。敵を排除できない弱さ。自分に確信がなくいつでも迷い続けていて、右往左往しながら曖昧に笑って生きている。
そんな顔で笑うのは苦しいはずなのに、諦めて妥協して……割り切っている。
「カイネはクズなんかじゃねぇよ」
「へ?」
「俺に飯を作ってくれただろ」
辰也は、そういう人間こそ幸福になるべきだと思っている。
昔は言葉にすらならなかった。今は違う。断言できる。最後に他人を見捨てることができない弱者は、優しくて厳しくない誰かは例外なく幸福になるべきだ。
やせ細った少女が差し出した、粗末な豆のスープがあった。
奴隷として扱われた辰也は、その味を絶対に忘れない。アホみたいにまずい粗末なスープが……気弱な少年を『龍』に変貌させたのだ。
辰也の横顔を見て、カイネは曖昧に笑った。
「ふっふっふ。実はあの飯はただじゃないんだ。貸しを作るつもりだったんだぜ?」
「嘘吐け。俺の嫁もよくそんなこと言ってたぞ。すぐ性悪を気取ろうとするんだ」
「……辰也の嫁さん、性格悪いね」
「事実だけど、カイネだけはそれを言っちゃいかんだろ!?」
「ははは……まったく、まったくもって仕方ない。僕に対して厚意で武装するというのは最大の脅威だ。まったく……こういうハーレム系主人公は本当に恐ろしいね」
「カイネは時折訳の分からんことを言うよな……」
「独り合点だから気にしないで。お詫びといっちゃなんだけど……旦那、やっぱりここは僕が奢ることにするよ。今日はちょっと気分が良い」
「そうか。それならば……ウェイトレス、一番高い酒を頼む!」
「肉もよろしくな!」
「オメーら、ちったぁ遠慮しろォ!」
気分が高揚している奴に、軽々しく奢るなどと言ってはいけない。
そんな当たり前のことを……カイネは痛感することになった。
当たり前のように、当たり前の夜が過ぎて行く。
それが幸福なことだと、馬鹿な男達は誰よりも知っていて――――。
だから、笑った。
馬鹿みたいに騒いで、笑い続けた。
●登場人物紹介&裏設定
・カイネ=ムツ
ダンジョンの管理人。今回は苦労性ではない。
この物語のラスボス。
見ての通りの弱者だが、だからこそ善意と厚意と好意には極めて弱い。
すぐに酩酊し、お酒にはあまり強くない。
なお、ファンタジー世界『シャンバラ』のお酒は厳密にはエチルアルコールではない。飲んだら酩酊する成分が含まれてはいるが、未成年が飲んでもたぶん大丈夫。
・カンナ=カンナ
ダンジョンの裏ボス的存在。引きこもりの魔神。
なんかこっちが主人公みたいな思い悩みっぷりである。
・アトラス=グル=ジルコン
第三階層担当の巨人族筆頭。以下の宝貝を貸与されている。
●陰陽真剣
陰と陽のバランスが完全に調和した大剣。決して折れず曲がらず鈍らない。
また、手にしている限り所有者の精神に関わるステータス異常を起こさない。
原点は『封神演技』のナタクが所有していた『陰陽剣』で、真とは付いているが実際のところはパクった上で改良したものである。
『原典があるだけの真作よ』とは、ニーナの言だが。
●三魂骸
純白の鎧。アトラスの着ているそれは、人間の筋肉を模したような鎧である。
身体能力向上、毒の完全無効、戦意高揚等々……数え切れない恩恵を与える効果があるが、その効果は着用した者に依存する。
己の利点と欠点を理解している者が着用すれば、長所を伸ばし、短所を補うような効果が付随されるが、自分自身に自覚がない者が着てもただの鎧に成り下がる。
着用する者によってその姿を変える鎧で、長い時間を賭け、魂を削り、己を極めた者こそ真価を発揮できる。
●大極鏡
磨き抜かれた鏡のような盾……に見せかけた鏡。攻撃を受けるとパリンと割れる。作中では盾と描写してあるが、カイネの一人称視点なので盾に見えるだけで鏡なのだ。
割れた後は三分ほどで元の形に戻る。
ここまで書くと大したことはないが、この大極鏡は『対宝貝用宝貝』である。
どんな攻撃でも問答無用で一撃だけ防ぐ、最強の鏡なのだ。
また、物理作用のない『視線が通ることによって問答無用で成立する効果』を反射することもできる。
鏡自体にも攻撃性能が付与されており、照射一度目で昏倒、照射二度目で死亡、照射三度目で灰燼となる。この辺は『陰陽鏡』というチート宝貝をパク(ry
この三つの宝貝は、武装としては最強なのだが、巨人族の理念とは噛み合わないという理由でアトラスは使いたがらない。
・ニーナ=グル=ジルコン
第三階層担当の仙人。旦那が絡まなければまとも。仙人は愛に生きちゃいけないのだが愛に生きてしまった結果色々と変になった。
以下の宝貝を所有している。
●偽・太陽針
詳細は第九話で。相手の動きを封じる補助的な宝貝。
普通の人間なら即死する毒を使用しておきながら『補助』とか断言しちゃうあたり、この仙人の頭がいかにイカれているかがよく分かる。
●惨殲飛刀
瓢箪から小さな赤い刃が無数に飛び出してきて相手は死ぬ。
あいてはしぬ。二回繰り返したが必ず死ぬ。
発動時間はおおよそ五分。全開戦闘の場合アトラスからなんと言われようが、こっそり使用開始され五分後にはあいてはしぬ。溜め時間が長いのが唯一の欠点。
これがあるせいでカイネから『第三階層はスデゴロ推奨』とか言われる始末。アトラスがちょろいわけではなくニーナさんが強過ぎるのだ。
正確には『死に至る現象』を体から魂魄が剥がれるまで繰り返す宝貝である。ニーナが今まで記録し続けた『生物の死因』が記録されており、飛刀が対象に触れると同時にそれを一瞬で再現する。
この宝貝にも原典が存在する。封神演技にて趙公明から十絶陣、万仙陣あたりまでの戦いをクソにした陸圧道人の持つチートアンドチート宝貝『飛刀(別名、眉目飛刀)』である。
藤崎竜先生の漫画には未登場だが、未登場で正解の『舞台と調和しない強過ぎるオリキャラ』で、初見必殺の十絶陣をあっさり突破したりと凄まじく強い。万仙陣の戦いを最後に姿を消すが、飛刀だけは太公望こと姜子牙に与えられ最後に妲己の首をはねることとなった。
そういうわけで、第三階層を真正面から突破したい場合は、速度と威力と攻撃回数が重要である。
惨殲飛刀を使わせず、大極鏡を粉砕してお釣りがくる程度が望ましい。
アトラスとスデゴロした方が百倍ラクなのは言うまでもない。
・長門辰也
第三階層まで突破した桜色の龍腕を持つ男。
『ワールド』出身。異世界に奴隷として呼ばれ、色々あって龍に拾われ『ドラゴンズ・ピーク』という龍の国で暮らすことになる。
そこでも色々あったらしい……正確には、色々とやらかしたらしい。
現在は嫁を探して三千里。
ダンジョンを訪れた理由は『嫁がいそうだから』という曖昧なもの。彼にとってはダンジョンは通過点にしか過ぎず、この後に旅立っている。嫁を探している目的も『あいつから告白の返事を聞いてねぇ』というものであり、さらわれたヒロインを探しているというわけでもない。実際、嫁は色々あって彼から逃げ回っている。
元々は抑圧され放題に育ったためか、空気を読むのに長けた人間だったのだが、異世界に飛ばされ魂に燻ぶっていたものが燃え上がり、こんな性格に落ち着いた。
決意した弱者。元々は抑圧され放題の黒い設定の男で、人に取り入るのだけがとにかく上手くそれだけが取り柄の男だった。
異世界成り上がり系主人公ではあるが、スタート地点は最悪で途中経過もクソ。最終的には人間関係でグダグダになり、成し遂げたいことは何一つ叶えられないというコンセプトでプロットだけ書いてみたが途中で『成り上がってねーだろ』という冷めた自分からのツッコミが入り、とりあえずプロットだけで止めてある感じ。
なお、今に至るまで散々敗退したゲストキャラどもではあるけど、ところにより再登場する予定があったりなかったり。
異世界に行ってモンスター娘とイチャイチャする系の話を卑下する表現を用いてしまって大変申し訳ありません。だから早くオカヤド作のアレの七巻が出ないかなぁと心待ちにしております昨今でございます。
次回はアナさんと中学生のお話……に、なる予定。
その前になにかフツフツと描きたいものがあるので、少しだけ更新が遅れるかもしれませんww




