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第五話 芽衣さん、事故or事件です

「芽衣ちゃん、こんなにカボチャを仕入れてどうするつもりなの?」


 お店の裏口に置かれた段ボール箱を見下ろしながらお母さんが困惑している。段ボール箱に入っているのは山盛りの黄色い大きなカボチャ。


「去年と同じで店先に飾るハロウィンのランタンにする予定」

「にしては多くない? さすがにこれだけは並ばないわよ、うちの店先」

「ああ、うちの学校でね、ハロウィンの仮装パーティをすることになってその会場に飾るものなの。心配しないで、ちゃんと実行委員会がお金を出して買うってことで仕入れたものだから」


 だからお店のディスプレイで使うのはせいぜい二個か三個。あとは学校行きのカボチャ君達だ。


「駅ビルのカルチャー教室の部屋を借りてね、そこで皆でランタン作りをするんだって」


 本当は近くの養護施設でランタン作り体験って話にもなったんだけど何せランタンをくり貫くのには刃物を使わなくてはならないから、小さい子達にはちょっと危険かなってことでそれは取り止めになったんだ。その代わり仮装パーティには御招待したので、今頃はそっちの担当の子は衣装作りやお菓子作りで大忙しな筈。


「ねえ、うちのカボチャをくり貫くのに店の奥を使っても良い? 家でやると台所が大変なことになっちゃうし」


 お店の中は水はけの良いたたきになっているから種や削りカスが散らばっても掃除が楽だし。


「いいわよ。そのかわり店番の方もしっかりやってね」

「分かってる」


 そうこうしているうちの実行委員会の役員の子達がやって来た。カボチャ入りの段ボール箱はちょっと持ち上げるには重た過ぎるので、役員をしているノンちゃんが運搬要員として山手の大学でアメフトしてる彼氏君を連れて来ていた。彼氏君はお前らもせめて一個ずつ持てとか言ってカボチャを一個ずつ押し付けている。さすがにそれを一人で運ぶのはアメフト部でも大変だったか。


「大丈夫? 置く場所もあるからうちは預かる分には構わないけど」

「いやいや、何度も来るより一気に運んだ方が良いから」


 そう言うとアメフト彼氏君は一緒に来ていた委員会の子達を仕切ってカボチャを運び出した。なんだか仕切り慣れてるねえ……。


「なんだか指示し慣れてるね、ノンちゃんの彼氏」

「アメフトのキャプテンだからね。有無を言わさずに皆を従わせるのが上手みたい」


 そう言って笑ったのは彼氏君を連れてきたノンちゃん。俺の言うことに従わないのはお前ぐらいだって言われてるよとか。もしかしてそれって惚気ですかー、ご馳走様!! そこへ自転車を押しながらパトロールから真田さんが戻ってきた。目の前で行われているカボチャ運搬レースをちょっと興味深げな顔をして見ている。


「こんにちは芽衣さん。凄い量だね、手伝った方が良いかな?」

「こんにちは~。大丈夫ですよ、あとちょっとだし」


 そう言えば真田さんとまともに話すのってファミレスで見かけて以来かも。あの女の人とはどうなったんだろう。


「このカボチャは一体?」

「学校でハロウィンの仮装パーティをするので、ランタン作ってその時に飾るんですよ。これだけの量を買い集めるのは大変だから、うちが伝手を頼って仕入れたんです」

「ここの学生さん達が制作を?」

「はい。何せ皆、創作系は得意なので」

「なるほど」


 そうこうしているうちに山積みだったカボチャ君達の運搬は無事に終わった。お支払いを済ませると暫くはカボチャ三昧ねーと言いながら皆はカルチャー教室のある駅ビルへと戻っていった。さて、私もお店のカボチャランタンを頑張って作らなきゃ!


 しばらく店の奥でカボチャをくり貫く作業に没頭していると、来客を告げるチャイムが鳴ったので顔を上げる。店の入口にお客さん。お店の中にあるお花を見ている。エプロンに飛び散っていたカボチャの種を掃うとお客さんの元へと急いだ。


「いらっしゃいませ~」

「このオレンジ色のバラとトルコキキョウで花束をお願いできます?」

「分かりました。ラッピングに使うリボン、ここから選んでもらえますか? どれを選んでもらってもお値段は変わりませんから」

「あら、そうなの? だったらこの可愛らしいのが良いかな。姪っ子のお見舞いなの」


 そのお客さんの姪っ子さんは山手にある大学附属病院に入院しているらしい。お花が好きな子なのでお見舞いに可愛いお花をってことなんだって。あそこの病院は病室も綺麗だし明るい感じのする病院だけど、やっぱりお花とか飾った方が気持ちも明るくなるよね。


「あ、足りるかな……」


 そのお客さんが指定した可愛い柄のリボンは結構な人気でよく出るもの。普段なら残りが少なくなってきたら買いに行くものなんだけどすっかり忘れてた、買いに行かなくちゃ。お客さんを送り出してからラッピング用のリボンと包装紙の在庫を確認すると、案の定、頻繁に出る包装紙が底を突きかけていた。


「あれ、こっちの包装紙も少なくなってる……お母さーん」

「なあに?」

「ラッピング用の包装紙とリボン、少なくなってるのがあるから買ってくる」

「あ、ごめん。買いに行くのすっかり忘れてた!」


 慌てた様子でお母さんが奥から顔を出した。


「やっぱりー。あと三枚ぐらいしかないから今から買ってくる。店番の交代ね」

「ごめんごめん」


 薄紙とかそういう大量に使うものは取り寄せで届けてもらうんだけど、たまに使う贈答用の包装紙とかリボンは近くの駅ビルに贈答用品を取り扱っているお店がテナントとして入っているのでそこで購入している。最初は何となく季節のお花の色に合うものをって軽い気持ちで少しだけ買っていたのが意外とお客さんに好評だったので、今では何気にリボンもラッピング用の包装紙も種類が増えていた。買い出しするのがちょっと大変ではあるけど、お客さんが喜んでくれるんだから良いよね。それに私も可愛い包装紙やリボンを見るのは楽しいし。


 お財布を片手に駅ビルのお店へと向かう。ほんと、ここに来ると可愛いリボンとかたくさんあって見ているだけでも幸せな気分になるんだよね。使いもしない箱とかついつい欲しくなっちゃって困るよ。


「あ、フラワーボックスとか取り扱ったら需要、あるかな……」


 あまりアレコレと手を広げると収拾がつかなくなるから止めておいた方が良いかな。そのうちお母さんに話してみよう。目移りしちゃう気持ちを抑えて在庫で少なくなっていた包装紙とリボンだけを購入すると、それを抱えてお店を出た。リボンはともかく、この包装紙っていうのはちょっと厄介なのよね。折り畳むわけにもいかないから筒状に丸めて貰っているけどかさ張るし何だかちょっとした丸太を運んでいる気分。本当にお店が近くて良かった。


 これを買った時はエレベーターやエスカレーターを利用すると他のお客さんの顔を突きそうで怖いからいつも階段を利用するので、今日もいつもと同じでお店から出てすぐのところにある階段を降り始めた。



+++++



 と、私が今日の出来事で覚えているのはここまで。次に目を開けたら何故か見たことのない白い天井。何だか普段とは違う寝心地のベッドだしいつものハーブの香りのがする自分の部屋じゃないし、もしかして今までの出来事は全てリアルな夢だったのかな?って思ったぐらい。


「あれ?」

「芽衣ちゃん! 気が付いた?」


 お母さんの声がして視界に心配そうなお母さんの顔。ああ良かった、夢を見ていたんじゃなくて寝ていただけなんだ私……なんて呑気なことを考えてしまってからアレ?となる。夢じゃないとしたら私、駅ビルに包装紙とリボンを買いに行った筈なんだけどどうしてこんな風に寝ているんだろ? それに、ここ何処?


「お母さん? ここ、何処?」

「覚えてないの? 駅ビルの階段から転げ落ちたらしくて意識がなかったのよ、芽衣ちゃん」

「え、そうなの?」


 言われてみれば何だか体のあちこちが痛い。しかも何だかおでこの辺りが一番痛いような気がする。手で触れてみると包帯が巻かれていた。


「あ、痛いかも」

「そりゃそうよ。思いっ切り階段の角にぶつけて切れちゃってたらしいから」

「うわあ、スプラッター……」

「そんな呑気なこと言って。看護師さん呼んでくるからジッとしてなさいね」


 お母さんが立ち上がって病室を出ていった。


「そっか、ここは病院なのかあ……」


 窓の方を見ると既に夜だ。私、どれぐらいの間、寝てたのかな。


 暫くしてお母さんが先生と看護師さんと一緒に戻ってきた。先生は看護師さんに起こしてもらった私の目をペンライトで覗き込んだりあれやこれやとしてから吐き気は?とか眩暈は?とか質問してきた。私てきにはあっちこっちが痛いぐらいで何ともないから、作りかけのカボチャのこともあるから早く帰りたいんだけどなあ……。


「CTでは異常は見られませんでしたが今日一日は念の為に入院して下さい。何事も無ければ明日には退院してもらえますよ」

「えー……」

「えーじゃないでしょ、芽衣ちゃん」


 私の超不本意そうな声に先生はこんな元気な怪我人さんも珍しいですねと笑った。運び込まれた時は顔が血塗れだし意識ないしで大変だったのに、起きた途端に元気一杯な私にちょっと驚きを通り越して呆れているっぽい。


「まあ今夜だけの辛抱ですよ」


 先生と看護師さんは傷の具合を確認して今日は安静にねと念押しして病室を出て行った。お母さんはホッと一息ついてベッドの横の椅子に座り込む。


「病院から連絡があった時はもう心臓が止まるかと思ったわよ、芽衣ちゃん」

「ごめん。まさか階段を踏み外して落ちるなんて思ってなかった」

「……本当に踏み外したの?」

「どういうこと?」


 その言い方に引っ掛かりを感じてお母さんの方に目を向ける。


「まあ芽衣ちゃんが無事だったんだから、その話はまた改めてってことしましょう」

「ねえ……」

「なに?」

「……お腹空いた」


 私の言葉とタイミングよく派手になったお腹の虫の音にお母さんはプッと噴き出した。


「分かった分かった。何か買ってきてあげるから大人しくしてなさいね」


 おでこは痛いけれどお腹が空くぐらいだから大したことないんだよねと、買い出しに出かけたお母さんの帰りを待ちながら勝手に納得する。怪我したのがおでこだけで良かったよ、下手に手首とか痛めたり折ったりしたら次の課題の水彩画が描けなくなるところだったもの……と帰ってきたお母さんに言ったら芽衣ちゃんは本当に呑気すぎって呆れられてしまったけど。



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