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第十五話 らしきものじゃなくてデートでしょ

「あー、もう来ちゃった!!」


 次の日、駆け足で家の玄関から出てお店の前へと回り込んだタイミングで真田さんが商店街の向こう側から歩いてきた。その姿を見てガックリしてしまう。やっぱり時間ピッタリだったよ、分かっていたけどさ。


「え? だって待ち合わせの時間、十時だったよね?」


 真田さんは私の叫び声に困惑した顔をしながら自分の時計を見て首を傾げた。そうなんだけどさ、そうなんだけどさ!!


「今日こそ真田さんちが何処にあるか突き止めようと思ってたのに!」


 商店街の真ん中の通りを桜川の方へ曲がった方向の先にあるらしいってのは今までの行動で分かっていたから、今日こそはもう少し先まで何とか探りをって思っていたのに全然ダメじゃん私。これでまた真田さんの住んでいるところを突き止めるのが先延ばしになっちゃった、無念。え? 知りたかったら本人に聞けば良いんじゃないかって? それは真田さんにも言われたんだけど、そこを自力で突き止めるのが面白いんじゃない。だから教えてくれようとする真田さんにも口止め中なのだ。


「だったらもう少し早く出なきゃ。芽衣さんが出てきた時、俺、もう店の一歩手前だったんだから」

「……だもん」

「え、なに?」


 私がボソボソ言ったら聞こえなかったらしくて屈みこんで耳を傾けてくる。


「……寝坊しちゃったんだもん」


 私の答えに真田さんは思わずといった風に噴き出した。だって仕方ないじゃない、最後までどんな服を着ていったら言いか迷っちゃって寝られなかったんだもの。これにするって決めておいたのに急にやっぱりあっちの方が良いかな?って起き出すこと数度。それだけ悩んだのに結局は普段と大して変わり映えのしない服装になっちゃったし報われない感が半端ない。敢えて違うところをあげるならジーンズとエプロンとスニーカーがスカートとムートンのブーツになったぐらい。そんな訳で今日の私はクマはできてないけど報われない気分なままの寝不足なのだ。


「まさか遅くまでリース作りをしていたわけじゃないよね?」


 ちょっとだけ疑わしげに尋ねてくるあたり真田さんも私のことをよく分かってきたって感じだよね。だけど昨晩っていうか今朝?あたりはそれどころじゃなかった。


「そんなことないよ、昨日はそっちにまで気が回らなかった」


 とにかく昨日から今朝にかけての私の頭の中はこれ以上は無いぐらい服のことでいっぱいで、クリスマスリースのこともお正月のしめ縄飾りのことも全く浮かんでこなかった。私にしては物凄く珍しい超レアな夜だったかも。


「なら良いんだけど。で、どうして寝坊したか聞いて良いのかな?」

「駄目!!」

「じゃあ詮索するのはやめておいてあげるよ。さて、じゃあ行こうか」


 結局あれこれ行き先を悩んでいた時に芽衣さんは何処か行ってみたいとこはない?って尋ねられて真っ先に思いついたのは近くのプラネタリウムだった。実は十一月の獅子座流星群を観たいって思っていたのがうっかり寝ちゃって見られなかったんだよね、それこそリース作りに夢中になっていて。で、この一週間限定で今年の流星群のおさらい上映会みたいなのをしてるんだって。だから行ってみたいなって思ってたんだ。


「ね、真田さん、こんな近場で良かった? もっと違うところに行きたいとかなかった?」

「俺が芽衣さんを誘ったんだよ? で、芽衣さんはプラネタリウムに行きたいんだろ? だったら問題ないよ、芽衣さんが行きたいところが俺の行きたいところだから」

「そう?」


 プラネタリウムの前を通るバスが出ている駅前のバスロータリー向かいながら真田さんの方を見上げた。


「それよりプラネタリウムが終わった後のことだけど、他に何処か行きたいところはある?」

「えっとね、都内のデパートでね、活け花展やってるの。それが見たいかな」


 こっちはお正月に向けた新春のしつらえをテーマにした活け花展だったからどっちかと言うとお花屋さんとして見に行きたいんだけど、リース作りを忘れて出掛けないかって言われていたからちょっと言いにくかったんだよね。だけど真田さんは芽衣さんらしいねと笑っただけ。良かった、却下されたらどうしようかと思いながら言ってみたから。


「じゃあ昼飯を食べたらそっちに行こうか」


 ロータリーが始発の市バスに乗って目的地のプラネタリウムに。土曜日ということもあって早い時間だったけど意外とたくさんの人が来ている。ちょっとだけ並んでチケットを買って中に入ると真ん中に大きな投映機がでんと鎮座していた。


「なんだかこうやって見るとやっぱり怖いかも」

「あれが?」

「うん。なんか頭の大きな宇宙人か怪獣っぽい。昔ここに初めて来た時にあれを見て泣いちゃったんだって私。あ、その時は今より古い施設だったらしいんだけどね」

「そうなんだ。今は泣いたりしないよね?」

「……多分」


 その時のことは覚えてないんだけど今見てもやっぱり不気味だなって思えちゃう。特に丸いところのイボイボみたいなのが気持ち悪い。そりゃ星空を映し出すのには必要なイボイボなんだろうけど私にとっては脳みそ宇宙人にしか見えないよ。


「大丈夫、今回は俺がいるから怖くないよ」


 そう言いながら笑った真田さんの後ろについて自分達の座席番号のところに腰を下ろした。なんとペアシートだ、こんなところに座るの初めて。真ん中にある筈の肘掛けがないから意外と広々とした座り心地だしなかなかいい感じ。


「二人がけって面白いね」

「せっかく売り場のお姉さんがペアシートがありますよって言ってくれたからね」

「ってことは私と真田さん、ちゃんとペアに見られてたんだ」

「そりゃ親子には見えないだろ? 兄妹にだって」

「だって身長差、こーんなにあるんだよ?」


 たぶん三十センチぐらいはあるんじゃないかな。今日のムートンのブーツだってそんなに踵が高いやつじゃないし、さっき入口のガラス窓に映っている自分達の姿を見た時に改めて凸凹だって思えたし。


「俺のこと見たら絶対にそんなふうには見えないと思うけどな」

「なんで?」

「秘密」

「えー、ちゃんと教えてくれないと!」

「芽衣さんもそのうち分かるようになるからそれまでは教えない」


 しばらく聞き出そうと粘ってみたけど秘密、教えない、そのうち分かるを繰り返すばかり。ほんと、お巡りさんって口が堅いんだら。仕方が無いから諦めて別の話題を降ることにした。 


「真田さんプラネタリウムって来たことは?」

「実は小学生の頃に一度きりかもしれないな。いつも面白そうだなとは思ってはいたけどなかなか来る機会が無くてね。だから芽衣さんが来たいって言ってくれて良かったよ」

「喜んでもらえて良かった」


 話をしているうちに上映時間になって周囲が暗くなる。最初に映し出されるのは昔この辺りで見られた星空の様子。今はこの辺も都会になって夜もビルのネオンで明るくなったから殆ど星は見えなくなっちゃっているらしい。そう言えばお婆ちゃんがそんなこと言ってたかな、商店街周辺も田んぼや畑が多くて用水路では蛍が見られたって。あまり意識してないけどやっぱり希望が丘の周辺も都会化してしてるんだなって今と昔の星空の映像を見て実感してしまった。


 それから流星群の仕組みとか種類の解説があっていよいよ今年の流星群のおさらい会。意外と聞いたことのないような流星群もあったりして思っていたよりたくさんあるってことが分かった。


「?」


 頭上で展開している流星群の映像を感動しながら眺めていると不意に小指の辺りに真田さんの手が当たった。お隣さんだしペアシートだからお互いの手が当たるのは不思議でも何でもないことなんだけど、触れるか触れないかぐらいの状態が何だかちょっと恥ずかしい。急に手を引っ込めるのも変だしどうしようって思いながらジリジリと距離を開けていたら、真田さんの手がいきなり私の手を握ってきた。チラリと横を見ると真田さんは上に視線を向けまま。だけどこれって無意識で握ってきたなんてことはないよね?


「……」


 試しに握られた手から自分の手を引き抜こうとしたらギュって握る力が強くなった。まるで逃げるなって言われているみたい。チラリともう一度、真田さんを伺ってみるけど相変わらず上の流星群の映像を見ている。どう考えても離してくれそうにないからそのまま大人しくしていることにした、けど……暗いから誰にも分からないとは言えこんな風に男の人に手を握られているのはやっぱり恥ずかしいかな。そう言えば真田さんとこうやって手を繋ぐのって初めてのことだよね。っていうか、家族以外の男の人と手を繋ぐのって幼稚園とか小学校のお遊戯以来、初めてのことじゃないかな。


「……」


 そんなことを考えていたら急にドキドキしだして流星群どころじゃなくなってきちゃって解説のお兄さんの言葉がちゃんと頭に入ってこないよ、どうしよう。


「芽衣さん、脈が凄いことになってる」


 体を傾けてきて耳元で小声で囁いた真田さんの指が手首の脈が打っている場所に触れた。そのせいで更にドキドキが酷くなる。心なしか顔まで熱くなってきたかも! ちょっとしたパニックになっている私の気持ちのことを知ってか知らずか真田さんはそのまま指を絡めてきた。こ、これはもしかして恋人つなぎとかいうやつ?!


「真田さん、離してほしいかも」

「駄目」


 まだ上映中だからそれ以上大騒ぎするわけにもいかなくて結局ずっとそのまま上映が終わるまで真田さんに手を握られたままだった。そのお蔭で見たかった筈の流星群の映像の半分ぐらいは頭に入ってこなかったよ……。



+++



 上映が終わって外に出てから都内に出る為に乗った電車の中でも真田さんと私は手を繋いだままだった。さり気無く手を引き抜こうとするとギュッて力を入れて離してくれないし、必要なことがあって手を離してもそれが終われば手を差し出してきて無言の圧力をかけてくるから結局は手を取るしかないし。


「あの、真田さん?」

「ん?」

「手を……」

「手? 手がどうかした?」


 私のことを見下ろしてくる時の真田さんは何故かお巡りさんの顔。なんでそんな無表情?


「……いえ、なんでもないです」


 真田さんは全然そんなこと思ってないのかもしれないけど、やっぱり恥ずかしいよ。まあでも、それで真田さんが横で満足そうな顔をしたんだから良いのかな……?


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