短篇・詩:スランプ(500字くらい)
雪が降る。深々と雪が降る。
私の心に深々と降り積もったその雪は、溶けることを知らない。
書けない。あと一言がどうしても書けない。
たった一行、それを書けばいいだけなのに、私の右肘はまるで石を括りつけられたかのように重くなる。
そして今日という日が無為に過ぎ、明日という今日が繰り返される。
心の中に降り積もる純白の雪。
――私の心には全てがあって、そしてその全てが白く塗りつぶされた。
純白のキャンパスにペンを取る。
一筋の線が世界に色を刻み込む。
二筋の線が世界に言葉を刻み込む。
そして私の真っ白だった心は徐々に黒く汚されていく。
何も無かった私の心に言葉が戻る。
全てを忘れていた私の心に炎が宿る。
それは埋もれていた感情。
それは置き去りにしてきた言葉。
途端に世界は色を取り戻す。
真っ白だった雪はどろどろに溶けた黒く染まり、そしてその下に私の世界が目を覚ます。
白くなくてもいいんだ。
黒くてもいいんだ。
溶けた雪の下で目覚めた私の言葉が踊りだす。
黒く染まった私の瞳に光が灯る。
あれ程重かった右肘は重力を跳ね除けて軽快に踊りだす。
書ける。
今なら書ける。
最後の言葉が空から舞い降りる。
私が持っていたのはペン? 違うわ、それは雪。