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なんちゃって  作者: きいまき
1/3

 心臓がドキドキ高鳴り出した。


 それは現皇の第6番目の皇子、六の君が帰城する合図だ。

 先触れ何かが来なくても、己の唯一無二の存在が近付いて来ているのを、全身でしっかりと察知した。



 皇城には皇国の守護神が顕現する、力場がある。


 世界に数多いるらしい神の1柱が、ある人間を気に入って娶り、子が生まれた。

 その子孫が皇族なのだ。


 そんな神の気配に引かれてか、それとも神が顕現出来た様に、魔も現れやすい地なのか、はたまたその両方か、その逆に全く関係ない事象なのか、皇城の周囲には魔が始終出る。


 そんな魔による被害が出ない様に、退治するのが己の務めではあるが、城勤め・登城する者には、突如、魔と遭遇しても動じる事のない能力が求められる。

 毎日が肝試し、なのだ。


 警邏しつつ、闊歩する魔を退治する。

 大変分かりやすい、お仕事だ。


 六の君が通られる時だけ、殊更、目を光らせる。

 魔なんて物が、六の君の視界にさえ入り込まない様に。


 そして妄想内では、いつの間にか六の君が目の前に立っていたり……。


***


 己に気付いて、通って行く六の君が声を掛けて来てくれる。


「いつもすまない」

「いえ、仕事ですから」


 当たり前だが、貴人から謝られるなんて、まずない。

 たぶん六の君も、この場にいる相手が己でなければ、こんな風には言わないだろう。


「仕事、だけなのか……?」

「六の君の時だけ、念入りに、格別ですッ」


 少し残念そうな六の君に、慌てた。

 そんな己に視線を緩ませたかと思うと、すぐに心配げな表情を浮かべる六の君。


「魔物退治が重要な勤めだと、理解している。だが、いつか私の知らぬ間に怪我でもするのではと……」


 己は六の君に手を取られ、そして撫でられた。


「ほら。もうこうして触れても平気ではないか。今度こそ心身共に私の側にいて欲しい」


 六の君のお願いを叶えたいのは山々なのだが、首を横に振る。


「……今回も折れてはくれぬのだな、愛しい人」

「この場から、ずっとお慕い申し上げております」


 己の手ごと六の君の甲を引き寄せ、唇を落とした。


***


 なんちゃって。


 何度同じ妄想を繰り返しても飽きない、この不思議。

 この後は~、そうだな~。


「少し、いいだろう?」

 なんて言われて、木の陰でぎゅっぎゅして、ちゅっちゅして、それから~。


「ヒャ~~~ッ!」


 気絶したらどうするんだ、そこら辺にしとけ自分~ッ!

 照れ隠しに、魔を切って切って切りまくる、そんな日々だっていうのに。


 第3者から見ると、突如奇声を上げて、刃物を振り回す図だが、そんなの構ってられんっ。

 そうこうしている間にも、皇族専用門を通り、城内へと六の君の後ろ姿は消えていく。


 いつも、通り過ぎて行くだけで、決して立ち止まる事はない。

 言葉を交わすなんて、有り得ない。


 だから気絶する事も、鼻血すら出ない、六の君と己の距離。






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