ambiguity(曖昧)
相反する想いは瘡瘢を起す。
それが僕の理念。
だって、そうだろう?
僕はこんなにも傷ついてるんだから。
ねえ、神様。
こんな僕のことを教えるから、一つだけ答えてほしいことがあるんだ。
覚えている中で最も古い記憶は小学校の時のこと。
クラスメートの大半が輪を作り、僕はそれを眺めていた。
入りたい。
そう思い、輪の中に飛び込んだ。
でも、いきなり入ってきた僕を歓迎するわけもなく、みんなは戸惑いの表情を浮かべていた。
普通ならここで諦めて、輪の中心から離れるだろう。
けれども、僕は違った。
おどけ、ふざけ、時にわざと笑われるようなことをし、僕のことを認知させようと必死になったのだ。
しばらくして、僕は輪の中でピエロのような役割になる。
決してピエロは泣いてはいけない。
どんなに辛くても、どんなに悲しくても、どんなに怒りがこみ上げても、みなを必死に笑わせるために率先して笑っているのだ。
そんな努力の甲斐もあり、僕がいれば笑いが起こり、自分から輪に入っていかずとも、輪が僕を取り囲むようになっていた。
それと同時に僕は次第に本当の意味でピエロになっていった。
どんなにイラつくことがあっても、僕は怒れなくなってしまっていたのだ。
まるで、メイクをしたかのように薄っぺらい笑みが張り付き、笑い以外の表情ができなくなっていた。
正確には、笑みと無表情。
人が側にいれば笑み、それ以外は無表情だ。
そんな日々を過ごすうちに、輪がとても不愉快に感じるようになっていった。
なぜ、僕はこんな奴らに笑っていなきゃならないんだろう。
そう思いはするものの、人に見せるのは笑みばかり。
なんて愚かな連中なんだろう。
だけど、輪から離れることが出来ない僕が一番愚かだとわかっていた。
人がいなければ僕はただの人形だ。
でも、人がいても僕はただのピエロだ。
人が好きすぎて、嫌われたくない。
人が嫌いすぎて、笑みを作りたくない。
輪にいれば、僕の本性に近づく人もごく稀にいた。
「君って、なんか変だよね」
「そうかなー? よく言われるよ」
そう笑い返す。
それぐらいじゃ僕のメイクは崩せない。
「君って、笑ってるけど笑ってないよね」
「どこが? こんなに笑ってるじゃん」
オーバーなリアクションしつつも、この時は背筋が凍るような思いがした。
そんな具合に僕は人が大好きで、人が大嫌いなのだ。
ねえ、神様。
いるのなら答えて。
本当の僕は笑っているの?
それとも泣いているの?
もしかして怒ってる?
なんだか、最近メイクが厚すぎて本当の僕が僕にもわからなくなったんだ。