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千里眼の御子  作者: 貫雪
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 案の定、作戦は上手くいっていた。暴走組は策略にはまり、会長の車よりも先に出た、私達の事を追いかけはじめた。彼らの邪魔をする私達を追い込むように、彼らは仲間のいる所へとやってきた。自分たちが追い込まれる存在を内封しているとも知らずに。

 蓋を開けてみれば彼らの思惑は大きく外れ、会長は車に乗ってはおらず、銃を持たせた仲間は、味方に引き入れたと思い込んでいた、元の真柴組の組員達にその銃を取り上げられた。


 それでも彼らは数にものを言わせて、私達に襲い掛かった。


 大乱闘になった。片っ端からやってくる相手を片付ける。しかも、ある程度相手をひきつける必要があった。会長達が無事、安全な所にたどり着かなくてはならないし、わざと情報漏れを装って警察に彼らの事務所に家宅捜索させるよう、手も打ってあった。この二つの事がうまく運ぶまで、この乱闘を放り投げる訳にはいかない。



 私は能力的に腕力に頼るわけにはいかない。一番効率よく相手を翻弄できるが、一番精神力もスタミナも使ってしまう。こういう長い時間の喧嘩には本来向いてないのかもしれない。

 それでも僅かな手勢で命懸けで会長達を守っている、良平の負担を減らしたい。無茶をしているつもりは無かった。ただ、私は自分でも気付かない内に、考えていた以上消耗していたようだ。

 私は襲ってきた相手の、みぞおちを一突きした。相手はナイフを握ったまま意識を失いかけた。前方に倒れかける相手に私は半身を翻し、相手の後ろ側へよけた、つもりだった。

 相手は足元の石に気付かず、踏んでバランスを崩した。本人も意図しないままに私の方へと倒れて来る。ナイフの刃先が向かってくる。しまった! 油断した!



 身体の向きを変えようとするが間にあわない。

 良平の顔が思い浮かぶ。

 もう、どうする事も出来ない。万事休す。

 せめて急所を外れてほしい。思わず目をつむった。



 ガキッ。



 鈍い金属音と共に風の駆け抜けるような気配。目を開けて目に飛び込んできたのは、転がって行ったナイフと気を失って倒れた男。そして、ドスをかまえた良平の姿。


「良平!」


 幻じゃない。本物だ。良平が間にあってくれたんだ。


「大丈夫ですか?」

 こんな時でも律儀に敬語になるのね。良平らしい。


「ありがとう、大丈夫。助かったわ」


「お守りの効果はあったみたいですね」


 あった、あった。こんなにギリギリで良平が間にあってくれるなんて。


「最高ね。このお守り」

 私は良平にそう言って、小さな袋をかざしてみせた。



 そして麗愛会はこてつ組に無事吸収され、一連の騒動は解決した。



 私達は組長に正式に婚約したいと願い出た。もう、反対される事もないだろうと思ったし、されたとしても押し通すしかないと思っていた。

 ところが実際は反対されるどころか、もろ手を挙げて喜んでもらえた。このまま私達が二人揃って独身を通したら、どうしたものかと随分悩んでいたらしい。ただ、式を挙げ、婚姻届を出すのは少し待ってほしいと懇願された。

 こっちは今まで待つ、待たせるばかりの時間を過ごしたので、もう、待つのはうんざりというのが本音だったけれど、組長の言葉を聞いて、考えが変わった。


「お前達を困らせようと言う訳ではないのだ。勿論、組の者には婚約を知らせるし、なんなら部屋を同じにしてもかまわない」


 いえ。婚約はともかく、そんなに直接的な事をされても、小さな組の中では困るんだけど。


「ただ、先に御子を、私の養女として迎える時間をくれないか? ほんの少し、一年でも、半年でもいい。正真正銘の私の娘である時間を持たせてほしい。私だけの娘の時間を」



 組長の養女になりたい。籍に入れてほしい。組長を「お義父さん」と呼びたい。私が願い続けた事を、組長も本当は願ってくれていた。それをやっと組長は口にしてくれた。

 異存なんてありません、お義父さん。私達はずっと家族として暮らし、これからは、もっと深い家族になれるんだから。


 ただ、良平は「まだ、待つのか……」と、こっそりつぶやいたけど。


 まさかホントに、みんなが身内の様に暮らす狭い組の中で、籍も入れずに部屋を一緒にするのも、恥ずかしいもんねえ……。



 でも、この婚約期間、本当に楽しかった。こんな稼業のツケで事件と騒動はついて回ったけど。

「お義父さん」と呼ぶたびに照れて逃げ回る組長を、わざと追いかけ回したり、みんなに冷やかされたり、勘ぐられたりしながら互いの部屋を行き来したり、組長が山の様な式場のパンフレットを持ち帰り、「あれはどうだ」「これはどうだ」と勧める姿を見たり。

 一体誰の式なのよ? と、突っ込みたくなるほど組長は真剣に式場選びをしている。その理由はよく分かっている。今、ひと時だけ組長は、私に若い日の女将さんの代わりをさせているんだ。

 本当は組長が女将さんと挙げたかった式を、私達の姿に夢見ているのを私達は知っている。それほど私達の事を愛し、育ててくれて、今、喜びを分かち合ってくれている。


 このくらいの親孝行、当然です。


 ……見事な派手婚は、ちょっと疲れはしたけれどね。


次話で最終回です。

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