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千里眼の御子  作者: 貫雪
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 良平と話をするのは一番最後にした。良平が組長に反対するはずは無いんだけど、私は良平と向き合わなくちゃならなかった。

 もう良平は待てなかったかもしれない。あんまりにも時間が経ち過ぎたと思う。撥ねつけられても仕方がないし、それは良平のせいじゃない。私が心を育てるのに、時間がかかり過ぎたせいだ。

 それでも私はきちんと伝えようと思う。今まで良平の心が、『力』を使わなくても私に届いていたと言う事を。それにとても感謝していると言う事を。




 私は良平とハルオの部屋を訪ねた。二人の部屋に入るのは初めてのことだ。良平はそれだけ近くて、遠い存在だった。いつも一緒にいるのに近づけなかった。

 良平は待っていた。別に約束していたわけでもないし、私が組員達の説得をしている間、シマの見回りに出ていたのだから、眠っていてもおかしくなかったが、何だか待っていてくれた気がした。


「ハルオは?」


「店の仕込みに行きました。こんな騒動の中でも店が気になるらしいです」

 ハルオも今は、シマのたこ焼き店を切り盛りするまでになっている。


「あの子らしいわ。あのね、良平」


「はい」


 言葉にしようとすると、言い出しにくい。でも、伝えたい事がある。


「ありがとう良平。私に沢山の事を教えてくれて。私、組長の心を読ませてもらったの。そうしたら気がついた。良平が今まで私にどんなに大切な事を伝えてくれていたのか」


「届いてくれましたか」


「ええ。おかげで私、自分の『力』と向き合う事が出来た。『力』に振り回されずに、自分の気持ちを認める事が出来るようになったわ。良平のおかげよ。もう私、自分に脅えなくて済むわ」


「自分で気がついていたんですよ。ちょっと勇気を出せば自分を認められたんです。外の世界を見て良かったでしょう? 世の中の懐は、結構広いですからね」


「広いのは良平の懐だわ。だから私、甘えて気付くまでこんなに時間がかかっちゃった。ごめんね」


「謝ることじゃないでしょう?」


「そうね。もっと言いたい事があるんだから」


 謝るために伏せた眼を真っ直ぐに良平に向ける。言葉だけじゃない。態度でも伝えたい。



「私、良平が好きだわ。兄として以上に、家族として以上に。ハルオよりも、組長よりも大切なの」


「外の世界を見ても、変わりませんでしたか」


「当然よ。良平は大好きな組を守ってくれて、大切な事を教えてくれて、ずっと見守ってくれて」


「組長だって、そうです」


「最後まで言わせてよ。そして私を誰よりも認めてくれたの。私の持っている『力』も丸ごと。本当に懐が大きいのね」


「懐なんてありません。今だって悔しくってしょうがない」


「悔しい? 何が?」


「組長に先を越されました。心の中はいつだって見せると言ってあったのに」


 少し、すねたような言い方。どこかに甘えが入ってる。昔、こんな言い方は彼女にしかしないんだろうなって思ったっけ。今、私がその口調で言われている。


「……何、ニヤけてる?」

 顔つきまでちょっとすねる。


「ふふっ、内緒。そんなこと気にしなくていいわ。良平には先に一度見せてもらってるし、良平の懐の方が上だから、見せてもらいにくかっただけ」




「懐だったら御子の方がずっと上だ。たった十五で人の苦しみ、すべて共感しようとしたんだからな」

 いつの間にか口調が砕けている。お互いに緊張が解けたのかもしれない。


「古いこと、持ち出すのね。あの時は子供だったから」


「持ち出したのはそっちだろ? 子供だから驚いたんだ。本当はあの直前まで俺、戸惑っていたんだ。足を失った不安にも駆られていた。組を継ぐだの、家族になるだの、そんなこと受け入れられるのかって思っていた」


 やっぱり葛藤があったのね。それが当たり前。それでも絶望しなかった分、良平の心は強い。


「それなのに十五の女の子が、同じ思いを味わいたいって言ったんだ。あの瞬間、迷いも不安も吹っ飛んだ。あの時お前が見た俺の心は、お前が救った心の姿だ。本当の俺じゃない」


 私が救った? 

 いいえ。人の心ってそんなに単純じゃない。本人に素直な心がなきゃ、そう簡単に希望は見いだせない事を私は知っている。あの心は間違いなく良平のもの。


「だから俺の方でも組長にくぎを刺されたのを幸いに、お前から逃げていたんだ。本当の俺じゃない事を知られて、幻滅されたくなかったんだ」



「違うわ。良平、私を買い被ってる。良平の心の中にはとっても綺麗な部分があるの。その綺麗な心が良平を救ったのよ。私じゃない」


「それでも俺はあの時、生涯救われたんだ。だから御子に心を見せるくらいは、何でもないんだ。約束してあったよな? お前にとっちゃ、大事な事なんだろう?」


 そう。大事なこと。本当は良平の心からの本音が見たい。もう、どんな事が見えたってかまわない。私が良平に寄せる想いに変わりは無いから。


 私は『力』を使った。


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