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千里眼の御子  作者: 貫雪
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 こんなの誤解なんかじゃない。同情でも、親愛の情でもない。

 互いが惹かれあっていることを実感できる。自分の中の何かが壊れ、無いと思っていた甘い感情がほとばしるのが分かった。

 良平が離れる時は、さっきとは打って変わって優しかった。ゆっくり、そっと、顔が離れていく。痛いほどつかまれていた肩も、今は包まれるように手が置かれていた。


「私……、妹じゃ無かったの?」


 馬鹿な事を聞いている。自分でもそう思ったけど言葉が先に出てしまった。


「言わなくても、心を覗かなくても分かるだろう? 今、何をされるかも分かったはずだ。それでいいんだ。心なんか読まなくても、こうやって分かりあっていくものなんだ」


 良平にさっきの怒りは無い。ただ、瞳の色が悲しげに陰る。


「強引で悪かった。でも、気がついて欲しい。人を愛する気持ちをあきらめちゃいけない。こんなに大切な気持ちを投げ出して、生きていけるはず無いんだ」


 真剣な目。こうやって良平に正面から向き合ったのって、いつ以来のことだろう?


「御子は普通だよ。こういう時に『力』なんか必要ないだろ? 何かあって心を覗いたとしても、それは愛情の裏返しだ。それさえ分かってもらえば、誰も不快になんて感じないはずだ」


 手を置かれた肩も、今はまるで幼子をあやすようにポンポンと軽く叩かれている。口調も諭すように変わっていた。


「もう一度言うぞ。御子は普通の女だ。孤独になる必要なんかない。俺がダメなのは仕方がないが、人を愛せないなんて思い込むことはない。お前がそんな風になる事を、女将さんも、組長も、望まなかったはずだ。お前、もっと視野を広げた方がいい。組の中に閉じこもるからそんなヒネた考え方になるんだ。足を洗ってもっと世間を見た方がいい」



 ああ、やっぱり良平の中には綺麗な心がある。私の『力』なんかには惑わされない美しい部分がある。だからこそ、良平の心に近づくのが怖い。

 私はわざと、あの時の良平のトラウマを利用したのに。あの日の良平の心の傷を使ってでも、この力が人にとってどれほど不愉快なものか、知ってもらおうと思ったのに。

 それなのに良平は、熱い気持ちを伝えてくれた。気持ちを伝える大切さを教えてくれた。

 普通じゃないのは良平の方よ。心に突き立てられた刃でさえ、見事に受け止めて見せる。どんな傷を負ってでも、大事なことのためには決して逃げない。


 なのに、どうしてこうも、鈍いのかしらね? 私も良平の事、言えないけれど。


 良平がダメなわけ、ないじゃない。あんまりにも気持ちが強すぎて、もし、この心に否定されてしまったらと思うと怖くて仕方がないのに。

 私、どうしたらこの恐怖感から逃れられるんだろう? 人の心を受け入れる勇気を持てるんだろう? 組を出ていく以外に、方法は無いのかしら? 


 組を出る。良平と離れる。それを考えると足がすくむような思いに駆られる。組と良平が自分にとって、すべてになってしまっているのが分かる。

 今だったら良平が麗愛会に乗り込んだ時の気持ちが分かる。あの時良平は組と堅気の彼女がこの世のすべてだったんだろう。その二つを失いそうになって、どれほどの恐怖に駆られたか。

 でも、良平は強かった。命懸けで組を守り、足を失っても私達の心を受け入れ、彼女が去っても負けなかった。くじけず、前向きに生きてきた。

 今の私に、そういう勇気があるだろうか? 組のみんなに守られ、良平に守られ、半人前扱いへの反発はするくせに、自分の力に脅えて外の世界を見ようともしないで。

 だから私、人の心を受け入れられないんだ。たとえ傷ついてでも人の心に立ち向かおうと言う勇気が足りないんだ。うわべでごまかそうとするから、人を愛せないなんて思うんだわ。





「三組織の代表者で、連携する?」意外な話にみんなが驚いた。


「そうなのだ。ウチと、華風組と、麗愛会の三組織からそれぞれ代表を一人出して、連携してこてつ組の仕事をしてみようと言う話が出ている。我々が連合体としてやっていけるか確認するための試金石と言っていいだろう。ウチは麗愛会に元の組員がいるし、華風の身内だったハルオもいる。こてつ組の組長との繋がりもある。しかし華風と麗愛会はそりを合わせるのが難しい。そのあたりの調整役も求められる難しい仕事だ」


 組長が眉間にしわを寄せた。


「たしかに難しいですね」


 良平も考え深そうな顔をする。自分だったらあの二つの組の人間をどう調整しようかと考えているのだろう。すでにやる気満々だ。でも、私は口をはさんだ。


「その仕事、私がやりたいです。是非、やらせて下さい」


 やはり。組長はそんな顔をする。良平は真剣に私の顔をじっと見ていた。


「この仕事は女性にやってもらうのがいいのだそうだ。ウチの組員で女は御子だけだが、わしは正直お前を行かせたくない。お前は心を読む事に抵抗が強くなっている。負担が大きい」


「いいえ。私、心は読みません。仕事をするにも、あとの二人を調整するのにも。自分の言葉と心をぶつけて、この役目をこなしてみせます。どうか私にやらせて下さい」

組長は唖然とした顔になった。そして困り果てたように首を振る。


 でも、良平は笑顔を見せてくれた。よく言ったと言うような顔で頷いてくれる。私も視線を返した。


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