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千里眼の御子  作者: 貫雪
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 それから三年の月日がたち、私の組員ぶりもすっかり板についてきた。ハルオもすくすくと育ち、そのおかげで華風組とは良好な関係を保ち続けていた。

 麗愛会にも、ウチの元組員がいるので、そこそこ安定した関係を保っている。

 喧嘩が起きるのは生意気な不良が突っかかったり、酔っ払いが絡んだりすることで起こるトラブルくらいなもの。それでもみんなは女の私を喧嘩や小競り合いに巻き込まないようにと、見回りや用心棒的なことはさせてくれなかった。



 喧嘩と言えば、以前は喧嘩の助っ人に活躍していた良平は、自分が思うように動けない事に歯がゆい思いをし始めていた。足を失って何年も経ち、義足にも慣れ、日常生活での不都合はほとんどなくなったが、以前のように助っ人に出て組員を守ると言うわけにはいかなくなった。

 良平も初めのうちは自分が組のお荷物にならないように、自らの歩行訓練や、組の内情を知る事や、これからどうシマを管理するかなど、真柴の跡継ぎに相応しくあろうと努力するのに精いっぱいで、喧嘩の事はそれほど気に留めずにいたらしい。ところが月日が経つうちに、別の問題が持ち上がってきた。それまでは喧嘩沙汰や暴力沙汰は同じ街の組織の中で起こる事がほとんどだったのに、街の景気が良くなるにつれて、街の外からいろんな勢力が入りこんでくるようになった。


 同じ街の中の互いが分かっている組織だと、慣れ合いと言われようが、なあなあと言われようが、互いの義理や顔を立て、ここまでしたらこの辺で引っ込むというような力加減のようなものがあった。

 同じ街の中で互いが面子を立てあって長い年月を重ねたのだから、最低限の義理はお互い果たしましょうと、暗黙の了承が成立したりした。時にそれが破られるから、抗争沙汰が起こるのだ。

 ところが外からやってくる勢力はその辺の力加減が互いに分からない。ちょっとした事ですぐに大きな喧嘩沙汰に発展する。真柴組の周りも、騒がしくなってきた。



 こうなると良平も、自分の身を守るだけでは飽き足らなくなるらしい。以前は組員がピンチに陥るたびに助っ人に出向き、それ以上、指一本触れさせないよう全力でみんなを守っていたのだ。足さえ前のままであれば、今だってみんなを守る事が出来たのにと、思わずにはいられないのだろう。

 店のトラブルの小競り合いの後など悔しそうに義足を見つめ、舌打ちを打ったりする姿を見かけるようになった。


 この姿にみんな、胸を痛めた。特に、組長と私はつらい思いに駆られる。


 組長は手術時に良平の足の切断の許可を与えた事を悔いていた。そうしなければ彼の命は無かったのだからどうしようもないのだが、それでも足を失った一生を彼に強いてしまっている事が組長を苦しめるのだろう。あの時彼に生きてほしいと願ったのは良平自身ではなく、私達の方だったのだから。

 私もつらい。私は自分が立ち聞きや覗きをした事で、良平にヤケになる原因を作ってしまったような気がしていた。何年の月日が流れようとも、罪悪感が薄れることは無かった 組長は結果的には良平の命を救い、真柴の跡継ぎになるという生き甲斐を与える事が出来たけど、私は良平になんにも出来ない。ただ、後ろめたさが残っただけだ。他のことでの悩みなら、私なんかが口出しすることじゃないけれど、足の事で悩まれるのは私にとっても傷をえぐられるような思いがあった。



 そこで私は考えた。私が良平の足の代わりになれないかと。


 良平の動きの良さは私が一番よく知っていた。孝之さんをかわすのは、今では造作なく出来るようになったけど、良平は動きが日々鋭くなっていて、一瞬の気も抜けない程だった。頭では分かっているのに、身体の動きがついて行かない。それほど良平の動きは速いのだ。

 私は心が読めるから逃げ回るのは得意だけど、腕力は無い。だから私がおとりのようになって良平の攻撃できる範囲に誘い込むようにすれば、互いの長所が生かせるんじゃないかしら?

 でも、良平は私の提案を頭っから笑い飛ばした。


「御子、お前、喧嘩がどういう物か分かってないだろう? ひとたび喧嘩になれば、誰もが冷静でいられなくなっている。命を取り合う覚悟で向かっているんだ。そんな中でおとりになって、俺の懐に逃げ込むから、攻撃してくれ? ふざけるのも大概にしろ。女に喧嘩が務まるか。そんなにやりたけりゃ、自分で相手を叩きのめせるようになってからやるんだな」


 そう言ってげらげらと笑っている。話を聞く耳なんて持ってはくれない。人の気も知らないで。



 私は真剣だった。どうすれば自分の力で相手を倒せるのかあれこれと考えた。どんなに鍛えたって女の私の腕力なんてたかが知れている。良平の様に刃物でも握る? いや、相手を刺すのは本意じゃない。相手の武器から身を守る道具に使っても、刃物で人を襲いたくはない。

と、なると、あとは相手を翻弄して、勝手に倒れてもらうしかない。孝之さんは護身術は相手のバランスを崩す力を利用しているって言ったけ。ならば動きを読むだけじゃなく、こっちの意図に合わせた動きをさせて、徹底的にバランスを崩してやればいいんだわ。


 私はそれから、稽古の度に良平のバランスを徹底的に狙った。孝之さんでは動きが遅い。ちょっと動きに変化をつけると、すぐに倒れてしまう。良平は片足になってから、とっさの平衡感覚を取るのが上手くなっていた。彼を相手に稽古をすれば間違いなく私は実戦に使える技術を手にできる。私は全力で良平に向かうようになった。


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