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千里眼の御子  作者: 貫雪
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 私は高校を無事に卒業すると、バイトで一番慣れた店に店員として雇ってもらった。職業選択の自由を主張し、組長から強引に保証人の判を押してもらう。ダメでも女将さんがいるしね。

 店と直接雇用契約を結ぶのだから、いくらシマの店とは言え、組長に文句は言わせない。店の人たちともすっかり親しくなっているし、何より私にはバイト時代の実績がある。店の方でも喜んで雇ってくれた。


 清美や高校の友人たちとは、寂しいけれどわざと連絡を断った。彼女たちは進学したり社会に出たり新しい道を歩き出している。私はそういう道を自分から拒んだ。組にこだわって、彼女たちとは違う道を自分で選んだ。きっと彼女達も分かってくれたと思っている。


 もう、彼女たちに頼らなくても生きていける。私はそう思っていた。


 本当は組の仕事にも直接かかわった手伝いもしたかったが、組長は私が未成年である事を盾にして、今でも私を事務室にさえ入れてくれない。それどころか暇さえあれば見合い話を持ってくるようになった。

 まだ、ハタチにさえならない私に何処からこんなに話を持ってくるのだろうとあきれるほど、いろんな人を紹介したいと言ってくる。

 多分組長は私の頑固な性質を知って、ハタチになってしまえば、強引にここの組員として居座ってしまうだろうから、その前に堅気の男とくっつけてしまおうと考えたのだろう。

 そして、それは当たっている。私は成人したら組長がどんなに反対したって、ここの組員になることを決めている。


 大体、男をあてがってしまえば、くっついて堅気になるだろうと言う、その考えが気に入らない。私がどんなにこの組を愛しているか、組長だって知っているはずなのに、所詮若い娘の気持ちなんてその手の事には弱いものと、どこか舐めている節が感じられる。

 こんな態度を取られては、私はなおさら納得いかない。ここは私にとってただの組織じゃない。私を救ってくれたところであり、成長を見守ってくれたところであり、何より大事な家庭なんだから。

 そしてそんな私の気持ちを組中のみんなが知っていた。良平は勿論、女将さんでさえ、私がここのみんなと離れたくないと言う事を分かってくれていた。

 だから私は自信があった。成人するまでの間さえ凌いでしまえば、必ずここにいる事が出来る。だって組中みんなが味方をしてくれているから。

 前に私をここに置くかどうかと組長が迷った時も、みんなが味方をしてくれた。女将さんでさえ私の味方だった。今回だってそうだ。反対しているのは組長だけ。こういう時、私の望みは必ず通るはず。 私は前の件で、しっかり味をしめている。



 しかし組長の猛攻もとどまる所を知らない。


 朝、顔を合わせれば、


「会わせたい男がいるんだが」

 と言い、出がけには、


「どういう男が好みだ?」

 と聞き、帰宅すれば、


「せめて電話で話だけでもしてみないか?」

 と懇願される。


 そのたびに私は、


「私は会いたくないの」

 と言い、


「ここに私のおムコとして来てくれる人がいい」

 と言い、


「いくら千里眼でも、電話の声で人を好きになれるほど器用じゃないの」

 と突っ張った。


 そのうち組長はキレてしまい、

「こうなったら、堅気の男なら誰でもいいから、無理にでも縁づかせてやる!」

 なんて怒鳴り出す。


 そこで私は急にしおらしくなると、


「組長は、私に好きでもない男と強引に一緒になれって言うんですか? 一生がかかっているのに? 随分、残酷なこと、言うんですね」

 と言って、組長から顔をそむけ、だんまりを決め込んでしまう。


 すると組長はうろたえて、

「そんなつもりはないのだ。勿論、お前の幸せを考えてのことだ。お前だって分かっているだろう? 決して無理強いはしないから……」

 なんて、あべこべの事を言い出す始末。


 子供の頃は愛される事への自信のなさから意地を張って、組長にいいように振り回されていたけれど、今や私は組長の愛情に疑いを持ったりはしない。私の方が組長を手玉に取っていた。



 そのうち組長の人脈のネタも切れて来て、とうとう私へのお見合い攻撃も終わりを告げた。組長だって、私を自分の遠くにやりたくは無かったらしく、自分に関係の遠い人や、現実的な距離の遠い所を選ぶわけにはいかなかったようだ。

 いくら組長でもそんな身近な人間だけの中から、私の相手を探すのには限りがあったんだろう。弾切れを認めて、「当分嫁にはいかなくてもいい」と白旗を上げた。最初っから勝負はついていたんだけどね。


 それでも相変わらず組長は私に組の仕事に関わらせず、事務所も立ち入り禁止だった。

 でも、実は私は良平や女将さんからこっそり帳簿を見せてもらったり、孝之さんから護身術を教えてもらったり、こまごまとした事まで把握していた。それはみんなも知っている。実質組員同然になっていたのに、お見合い攻撃に夢中で、組長だけが気づいていなかったのだ。


 そして私はとうとう、待ちに待った二十歳の誕生日を迎えたのだ。


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