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千里眼の御子  作者: 貫雪
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 良平さんは、堂々と正面切って本部に乗り込んだらしい。あまりにも当たり前の顔をして、当然のように胸を張って建物の中を闊歩して来たそうだ。

 まだハタチの男の子が、突然こんな真似をしたら周りはさぞ、驚いたに違いない。しかも良平さんには全く殺気がなかったそうだ。むしろ、殺してくれと言わんばかりの無防備ぶりだったと言う。

 誰もがあっけに取られてその姿を見送っていたが、良平さんが会長室の前に来ると、さすがに慌てて捕まえようと、皆が一斉に襲い掛かった。


 ところがここで良平さんの姿は、かき消すように消えてしまった。そして、会長室の中に一瞬姿を現すと、風のように駆け抜けて、麗愛会の会長の前に机を挟み向き合ったそうだ。


「ウチの組員を返して頂きに上がりました」

 良平さんがそういうと、


「そう言われて返すと思うか? 断ったらどうするつもりだ?」

 と、会長は聞き返した。


「あなたを刺します」


 良平さんはそう言ってドスを抜いた。会長の横にいる男が前に出たが会長はそれを制した。


「それは出来まい。大勢の組員がお前を狙っている。その刃が届く前にお前は捕まるだろう」


「捕まっても、のがれて刺します」


「その前にお前が刺される」


「刺されても、あなただけは刺します」


 会長は面白そうに笑い、

「死ぬ気で刺すか。鉄砲玉は皆、そういうものだ。しかしほとんどは外れるものだ。ここには銃を持った者もいる。脅しではない。撃ち殺されてはさすがに刺せないだろう? 度胸は買うが、考えが甘いな」


「撃たれても刺します。俺が死んでも誰かが刺します。ウチの組の人間かもしれないし、ひょっとしたら、ここの人間かもしれない。あなたもその椅子に、安心して座っている訳じゃなさそうだ。実は俺があんたを刺すのを楽しみにしている奴が、ここにもいるんじゃないですか?」


 その時部屋に銃声が響いた。殺気を感じた良平さんは素早く身体を机に隠したが、足に銃弾を受けてしまった。そのすねから大量の血が流れ落ちる。もう彼は動けないだろうと誰もが思った。


「おしゃべりがすぎたな。足で済んだのを有り難く思え。会長、コイツ、どうしますか?」


 銃で撃った男がそういいながら良平さんに近づき、つかみかかろうとした。その時、良平さんがドスで男に斬りかかり、その隙に銃を奪う。そして撃たれた直後とは思えないような身のこなしで会長に飛び付き、その首元にドスをあてがった。誰もが息をのむほどの、すさまじい目をしたと言う。


「俺を甘く見ないでください。俺、ここに死にに来てるんですから。そいつもあんたの首を狙ってるかも知れませんね。よほど俺に吹き込まれたくないらしい。どうです? 取引をしませんか?」


「取引?」

 会長が目を丸める。


「今後真柴に手を出さないなら、真柴はあんたの命を必ず守ります。外の敵からは勿論、中の敵も含めて。ウチの連中は絶対に裏切りませんよ。俺が命と引き換えにした約束を、裏切れるような奴らじゃない。あんたもそれは知ってるでしょう? 真柴を甘く見ない方がいいですよ。組員の命を取られたりすると、しつこいんです、ウチは。俺みたいなバカがすぐに出て来る」


「分かった。守ってもらおう。今、救急車を呼んでやる」

 会長がそう言って受話器を取った。


「会長! こんな奴のいう事、聞くんですか?」

 銃を奪われた男はそう言ったが、


「真柴はウチの事をトコトン調べあげているようだ。コイツのいう事は本当だろう。真柴を切り崩したかったが、切り崩されそうなのはウチの方だ。私はお前よりは、この坊主の方が信用できる」

 そう言って会長は救急車を手配した。



「それで、その場にいた私が組長への伝言を頼まれました。良平との取引は成立したから、ウチに手出しはしない。だが、組員達は金の事が綺麗にならなければ返す事が出来ない。その連中には会長の命を守ってもらう。借金を返せそうな者だけ、連れ帰っていいと」


 命と引き換えに。ああ、やっぱり良平さんはヤケを起こしていた。まるっきり死ぬつもりで一人で無茶をしたんだ。


「いくら若いとはいえ、こんな無茶をするとは。何かあったんだろうか?」

 組長が頭を抱える。


 あったなんてもんじゃない。きっとあれから彼女とうまくいかなかったんだ。良平さんに家族はいないから、彼女を失い、組を失ってしまったら何にもなくなっちゃうもの。


「私のせいかもしれない」

 私はつい、そう言ってしまった。


「何か知ってるのか?」

 組長がすぐに聞いた。


「良平さんが彼女と口論している所を偶然立ち聞きしちゃって。私、話の腰を折っちゃったみたいなの。あの時私がいなかったら、仲直りしたかもしれないのに」


 実際は話の腰どころじゃなかった。あんな事がなければ、良平さんもヤケを起こしたりはしなかったのかも。


「そういう事は他人には関係がないものだ。お前のせいではないことは確かだから、気にしなくていい。仲直り出来る時は、何があってもできるものだ」

 組長はそう言って、私の頭に手を置く。


 すると、突然看護師の人が現れて組長に「ご家族の方ですか? お話が」と、声をかけてきた。


「彼に家族はいないので、私が後見人代わりです。お話ならうかがいます」


「そうですか。では、こちらに」


 そう言って看護師は組長を別室に連れて行ってしまった。なんの話があるんだろう?


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