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千里眼の御子  作者: 貫雪
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 私はしばらく落ち込んだ。例の彼の事もあったが、それ以上に自分の弱さを痛感させられた。

 組長の言うとおりだった。私は誘惑に負け、自分の欲深さを思い知った。

 ほんのちょっとなんて事は欲求の前では通用しなかった。わずかに使えば、もっと知りたくなる。この力はそういうものなのだ。自分の都合の良いところだけを見て、満足する事が出来るほど、人はおめでたくできてはいない。私はそれが分かっていなかった。


 それでも私がこの力を全く使わないと言う訳ではなかった。これは危険回避にはとても便利な力だ。

 以前、ナイフをよけてからというものの、私は自分の近くにいる人のとっさの行動が読めるようになっていた。おかげで誰かが怪我をしそうな時や、自分が転びそうな時など、事が起こる前にピンとくる。こういう時にはほとんど無意識のうちに使ってしまう。

 もうちょっとこまかいところでは、どのレジに並べば早く清算が終わるとか、どこまでなら値切れそうだとか、どんな事を褒めればこの人は協力してくれるとか、そんな小ずるい事も覚え始めた。それからちょっとしたいたずらなんかも。ただ、組長にバレると、きっちりお説教を食らうけど。


 それでもそうやって力とうまく付き合ううちに、落ち込んだ気分は解消されてしまった。



 三年生になり、進路だ受験だと周りが騒がしくなってきた。私は別に進学したいとは思っていなかった。一緒に学校に行きたいと思うほどの友人もいなかったし、進学して目指したいと思う職業もない。 さっさと組を手伝える立場になりたいのが本音だったが、組長が許してくれるはずもなかった。迷惑をかけたくない一心で、あまり費用のかかりそうのない学校を受験先にした。

 組長は私でなくても未成年を組員にする事は無かった。高校を出て十八でここの門をたたいても、組長の知人や、シマの店の関係先に住み込み仕事を紹介して、追い返した。


 そういう人は大抵施設上りで、自分と同じ施設にいたここの組員を頼って来るのだが、そのまま仕事が合えば、それでよし。合わなければ組長が職場と本人を説得し、それでもどうしてもとなると、初めてウチへの組入りが許可される。

 でも、そこまでやっても、トラブルはついて回る。生まれてほぼすぐに子を手放したような親なのに、いざ、我が子がこういう世界に入るとなると、顔色を変えて連れ戻しに来たりするのだ。

 特に母親が「何としてでも」と、腹を据えた時は物凄いものがある。誰にも何にも言わせない迫力があり、そこに信頼を取り戻して、家に帰る場合もある。

 父親だと、信頼があったのに何かの事情で横道にそれた者が、家に帰ったりする。母親があきらめていたり、疎遠だった父親が急に出てきても大抵上手くはいかない。そういう時は世間体から迎えに来ているだけで、話し合っても平行線になり、結局は組に残る事になる。


 だから組の門をたたき、本当に組員になるのは年に一人いるかいないか。そして、数年に一人くらい連れ戻されて堅気に戻っていったりする。だから組員の数はあまり増えもしなければ、減りもしない。 ここがいつまでも小さな組なのは、こんな事情もあるようだ。



 そんな組では新しい組員を一人迎え入れた。良平さんだ。まだハタチになったばかり。

 良平さんの父親もこっちの世界の人で、母親は幼い時に亡くなっている。父親も喧嘩で殺され、高校は施設から通ったそうだ。卒業後仕事に着いたが父親の事で後ろ指さされ、一年ほどで真柴の門をたたいた。生前父親に「どうしようもなくなったら、ここを訪ねるように」と言われていたのが真柴だった。どうやら組長と彼の父親は知り合いだったようだ。

 それでも組長は「未成年者は受け入れない」といい、良平さんは元の職場に戻ったが、あまりにいやがらせがひどく、ハタチの誕生日を迎えると再びここの門をたたき、受け入れられた。


 そういう事情を聞くと、もっと陰のある人かと思ったけど、良平さんにそういう感じは見受けられない。凛としたところはあるけど、どんよりとした暗さは感じられなかった。

 むしろ彼は私のイタズラ仲間になってくれた。

 先に良平さんにイタズラをしたのは私だった。新しく入ってきた人への挨拶代わりだった。


 彼がお茶を飲もうと考えると、必ず何かを隠した。勿論心を読んでいるので、ギリギリまでしかけない。彼がまさしくお茶を入れようとすると何かが無くなる。彼の湯飲みだったり、急須だったり、お茶っ葉だったり。勿論私は知らん顔で元の場所に戻す。

 でも、さすがに食事時のやかんを隠そうとしたのはバレてしまった。


「コラ、このいたずらっ子が」

 良平さんは私を捕まえて睨んで見せたが、その目が完全に笑っている。


「良平さん、迫力ないよ。ここでこんなんじゃ、これから困るんじゃない?」

 私も叱られている気がしなくて、笑いながらそう言った。


「そうなんだよなあ。どうやったら迫力出せるんだか。睨んだら御子ちゃんの方が迫力あるんじゃないか?」


「女の子にひどーい。迫力なんてないよお」


「いや、今は女の子の方が強いから。きっと御子ちゃんも迫力ある。睨んでごらん?」


「そんなことしません!」


 私達は笑い転げると、孝之さんに同じイタズラを仕掛けた。今度は二人掛かりだからタチが悪い。ついにやかん隠しにも成功し、他の組員達を次々と狙った。

 組員達はいたずらされては困った顔をしたり、笑ったり、ちょっとばかりの小言を言ったりした。

 そして組長にイタズラがバレた私は、きっちりとお説教された。たぶん、良平さんも。


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