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千里眼の御子  作者: 貫雪
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 真柴組での暮らしに私はすぐになじんでしまった。とにかくこんなに大勢の人たちに受け入れてもらったのは初めての事なので私はとてもうれしかった。



 学校ではついつい、人の考えを言い当てたりして気味悪がられてしまうので、なるべく地味に、目立たないように過ごすよう気をつけていた。

 影では色々あったんだろうけど、私自身が気味悪い上に私が暮らす「その筋の家」に関わりたくない事もあってか、表だっていじめてやろうとか、何かしてやろうと言う気は起きなかったらしい。皆、恐々と遠巻きに私を見ている感じだった。それも私には都合がいい。

 だけど、女の子同士というのはそんな事には関係なく、気があったりすることもある。

 私はそういう数少ない友人とそれなりの距離をとり、学校以外では関わらないようにして、まあまあ波風立てずに楽しい中学校生活を送っていた。



 そして、組に帰れば出来るだけ女将さんを手伝った。主に組員達の食事の支度や、後片付けがほとんどだったが、日曜などはここで暮らす人たちの大量のシーツを洗濯したり、お客さん相手でちゃんとした身なりをしなきゃならない人たちの沢山の靴を磨いたり、アイロンをかけたりした。

 各自の部屋は自分で掃除することになっていたし、供用の場所も持ち回りで掃除する事になっていたけども、男の人たちが不規則な仕事を抱えてのこと、相当いい加減な事も多い。そんなところは女将さんも頻繁には手が回らないので、気がついた時は私が掃除し直していた。


 片耳の聞こえが良くないので、接客や交渉事には向かない孝之さんは、よく、組の雑用を言い使っていて、組の中にいる事が多かったので、ちょっと重い荷物を動かす時や、買い物の荷物持ちなどで私を手伝ってくれた。

 でも、私に親切なのは孝之さんばかりじゃなくて、みんな、私には丁寧に接してくれる。私が千里眼だからとか、組長の娘同然だからということではなく、私が若い女の子だから気を使わずにはいられないという感じだった。


「やっぱり女の子がいると違うなあ。組の中が綺麗になるし、なんたって華やかになる」

 みんな、そんな事を言ってくれた。


 どちらかと言えば地味な私に何処まで華があるかは分からないけど、組を綺麗にしておきたいのは確かだ。神社にいた時は「清める」って事は、何より重要な仕事だった。見た目もすがすがしいし、心もあらたまる。そういう感覚は私の一部になってしまっているのだ。


 今までは養父以外の人からは、気味悪がられるか、地味と思われるかがほとんどだった私が、ここでは明るくて華やかだと言われる。もう、これだけで私は気分がいい。可愛がってもらえるって、嬉しい事だな。ここの人たちのためなら、なんだってやろうって気になれる。やっぱりここはあったかい場所だ。



 そのうち私は家事の手伝いだけではなく、組の役に立つことは無いかと思い始めた。

 組長が私を好奇心が強いと言ったのは当たりだった。以前の怖い思いはどこへやら、自分の力を使えば何か出来るんじゃないかと考えるようになっていた。

 そして、組には実際に厄介事が起こるものなのだ、真柴組はその頃、頻繁に麗愛会にちょっかいを出されるようになっていた。店に麗愛会の人間が来たと言っては、組員が「話をつけてきます」と言って出かける事が増えてきた。


 実際に「話し」だけで済んではいないことはすぐに分かった。組員の出かける時の緊張感が違う。結構な生傷を抱えて帰る組員もいたし。

 それに、孝之さんの呼ばれる機会が増えた。どうも彼は腕っ節の強い人らしく、組にとっては切り札的な存在のようだ。決して歳若い人じゃないのに、こういう時に信頼されているのがみんなの様子で伝わった。

 孝之さんにくっついていれば、私も組の役に立つチャンスを得られるかも。私はそう考えて、なるべく孝之さんの様子をうかがうようになった。



 そしてそれは正解だった。ある日、孝之さんに買い物に付き合ってもらい、荷物を運んでもらっていたら、


「御子ちゃん、ちょっと隠れて」

 と言われて、二人で止まっている車の陰に身を隠した。


 いかにも柄の悪そうな男と、そうでもないが目つきが嫌に鋭い男が目の前を通る。


「いや、すいません。あいつらにちょっと目をつけられてるんで。厄介な事になるとまずいんで隠れてもらいました」


「何かあるの?」


「あるって訳じゃないんですが、あいつら麗愛会の奴なんです。麗愛会は他の同じくらいの規模の古くからの組織、華風組ってところとずっと勢力争いをしているんです。喧嘩沙汰も多くて、怪我人や逮捕者も随分出ています。だからその組織のシマの周辺をうろついている事が多くて、こんな時間にここいらを歩く事なんてなかったんですが」


「孝之さんが危ないなら、私の雑用に使ったら悪いわね。ごめんなさい。私、知らなくて」


「知らなくていいんですよ。こんな物騒なこと。それにしてもあいつらが何考えているのか分かればなあ。なんだってこんな所をウロウロしているんだろう?」


 孝之さんは心配そうな顔をした。


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