サモナー、宿を探す
金は一銭もない。だから宿に泊まるなんてありえない。そんなことを考えていた時期が僕にもありました。
原理などは全く理解不能だが、この自分をピグーと名乗る白龍は、体から金貨を出せるらしい。
あの後時間も夜に近付き、だんだん寂しさを感じ始めていた俺の表情を見て、白龍は金貨を出してくれたらしい。肛門から出してるのかと少し勘ぐったりもしたが、無闇にモチベーションを下げるのは得策ではないので、真相は闇の中に葬ってしまうことにした。
ピグーは全く自分のいた世界に帰る気はないようで、さらに増えた好奇の視線をスルーしながら、一人と一匹で宿を探している。
宿なんてこの街の賑わいからして簡単に見つかるものだと思っていたが、以外とそうでもなかった。都市同士の交流が少ないのかもしれないなー、なんて予想を付けてみたりもするが、今はそれどころではないと思考を中止する。
「なあピグー」
「なにー?」
「俺ってなんでも召喚できたりすんの?」
「そんなん無理に決まってんじゃん。自分の力量を考えてから発言しろよぼけが」
あれ待ってなんか急に怖くなった。しかし不屈の闘志を持つ俺は果敢に再攻撃を仕掛ける!
「案内人くらいだったら……どうでしょう?」
違うんだ。睨まれたんだ。敬語を使わないときっと俺は今バーストス
トリームの中にいたんだ。
「ていうかさ」
「ん?」
「人に聞けば?」
お前は天才か。
「ってなにこれ!? 金貨じゃない! あんたなに、どっかのぼんぼんなの!?」
あの後結局道行く人に道を聞き、なんとかそこそこレベルの高いらしい宿に着くことができた。
そう、宿に辿り着いたまではよかった。しかし俺が失念していたのはこの世界の貨幣の価値だ。金貨というものは流通量が少ないようで、それゆえに価値も高いらしい。だってしょうがないじゃん、現代日本に生きてたんだもん。
その質問を嘘に嘘を重ねて乗り越え、ようやく部屋に入れるようになったときに、俺はある一つの事柄を忘れていたのに気付いた。
「あー、あともう一つだけいいですか?」
「なんでしょう?」
受付の金髪美人お姉さんも落ち着きを取り戻し、丁寧な口調に戻っている。これならこの関門は簡単に越えられそうだ。
「ペットオッケーですか?」
その言葉に、俺の背中からひょいと飛び出すピグー。それを見て固まるお姉さん。
なんとも表現し難い静寂が宿の受付全体を包む。
「はあああ!?」
どうやらまだまだ関門を越えるのには時間がかかるようです。