サモナー、召喚する
サモナー2
さて、なんと私は今、裏路地にきていまーす! そしてなんとなんとー、私の目の前にはいかついお兄ちゃんが三人もいます!
人生で初めてがっちがちの絡まれ方をしました。不安な気持ちを押し殺して、なんの当てもなく歩き始めてすぐに、このお兄ちゃんの一人の肩にぶつかってしまい、あれよあれよという間にこの場所に。なんでこんなひ弱な俺とぶつかって肩に青アザが出来るのさ。
「だからよ、何度も言わせんなっての。金さえ出せばここは穏便に済ませてやろうって何回言えばわかるんだよオラァ」
そんなことを言われましてもこちらは知らん世界にほっぽり出されたわけでございまして…。
「こんだけ言ってもわけんねえんじゃしょうがねえ。体でわからせてあげようか。なあ」
スキンヘッドで俺よりも一回りも二回りもでかい男の言葉に、似たような男たちが頷く。
拳を作り、指をぽきりぽきりと鳴らしながら俺に段々と迫ってくる。後ろに逃げようとするも、すぐそこには壁がある。なんらかで出来た窪みがあり頑張れば越えられるような気もするのだが、今はとにかく時間がない。こいつらを避けて大きい通りまで逃げるというのも、この路地の細さゆえ不可能だ。
死亡決定しました。
いやー、長いようで早いもんだったな俺の人生。
『僕を使って』
ははっ、子どもっぽい声の幻聴までするわ。
『幻聴なんかじゃないよ。僕は君の味方だよ』
なんか会話になっちゃってるよ。頭でもおかしくなったか。異世界に来たってのも俺が作り出した幻覚だったのかな。
『違う。そんなんじゃない!』
俺の頭に響く声が荒くなった。
『自分の胸に右手を当てて』
なんだかその声に従わなくてはいけないような気がしてきて、思わず右手を心臓のあたりに当ててしまう。
「なんだい兄ちゃん。それがあんたなりの謝罪のぽーずってかい。中々面白いじゃねえか」
その間にも男が俺への距離を詰めてくる。
『僕が今から言う言葉を口に出して』
その言葉に俺はわかったと小さく答える。
『我、召喚する者なり』
「我、召喚する者なり」
「おいおいなんだなんだ」
急にわけのわからない言葉を発した俺をいぶかしげに見てくる。そりゃあそうだ。俺だってわけがわからないんだから。
『我、異世界の扉を叩きし者なり』
「我、異世界の扉を叩きし者なり」
「お前俺の事を、舐めすぎダァ!」
ついに男の内の一人が拳を掲げてとびかかってくる。
『そして我、力を欲する者なり』
「そして我、力を欲する者なり」
もう拳がすぐ目の前まで迫ってきている。
しかしなぜだろう。気持ちは不思議と落ち着いていた。
『白き龍よ! サモン!』
「白き龍よ! サモン!」
「うらああぁああ!」
拳が顔面に当たる! これからおそいくるだろう衝撃に、目をつむる。
しかしその衝撃はいつになっても訪れることはなかった。
恐る恐る目を開ける。
「え? なんで?」
そこには地面に倒れる三人の男と、なんとなく満足したような顔をした、小さな龍の姿があった。