サモナー、召喚される
異世界に召喚されて、世界を救えと言われる少年の話をご存じだろうか? ラノベやらゲームやらでよく見かけるあれだ。
なぜ俺がそんな話をしたかって? 高橋祐輔23歳フリーター。異世界に召喚されちゃいました。
「あなたが勇者様ですか?」
俺の前で天使のような微笑みを浮かべる少女。周りからは無骨なコンクリートのようなもので作られた壁が押し潰すような圧迫感を与えてくる。
「その鋭い目付き、恰幅のよい体駆。やはりあなたが勇者様なのですね!」
この一瞬の間にあんたの思考になにがあったんだよとは聞かない。
三白眼に、しばらく家にこもっていたせいで出てきてしまった腹。いつのまにか高校時代に文芸部で鍛えた俺の見事な肉体はどこかにいってしまっていた。
「では勇者様、この世界にはこびる魔の者たちをあなたの手で葬ってください」
え? ちょっと待って? なんかこの可憐な女性は僕の背中を押して、この部屋から追い出そうとしてるんだけど? なんかフラグ立ったりしないの?
「異世界から召喚される勇者様には、魔の者に対抗するための力が備わってます。雷を起こす力、海すらも切り裂く力、万の兵すらもその智謀で見事に率いる力――。きっと貴方にも同じように、神をも畏れる力がある事でしょう。では、その旅路に神の栄光あれ」
城の入り口にまで追いやられ、なんかくっちゃべったかと思うと、最後の一押しでさよならだと。城の描写をするくらいの時間はくれよ。
という俺の気持ちも彼女には届くわけがなく、5メートルもあろうかという木製の扉が重厚な音をたてながらしまっていく。その隙間から見える女神の笑顔。よし、許す。
「切り替えてこーぜぃ!」
これが文芸部流の気合いの入れ方だぜ! 城の周りには活気のある町並みが広がっていて、人も砂糖に群がるありんこのようにうじゃうじゃといる。そりゃどんびきされるわ。
城下を歩くと、たくさんの物が目に入ってきた。可愛い女の子とか。可愛い女の子とか。後はちょっと意外かもしれないけど可愛い女の子とか。
なにしてんだろ俺は。
ちょっと真面目に見ていくと、城の門から一直線になっている道は、やや傾斜があった。遠くに見えるのは、大きな壁と、大きな門。あれが敵から身を守るやつだろ、と一人で納得しておく。
後ほんとに思うのは、俺の服は少々目立ちすぎているかなー。赤と白のボーダーのティーシャツに、紺の半ズボン。基本的にこの町の人は、クリーム色の布を切っただけのような簡単な服を着ているので、変な目で見られている気がする。異国の商人と崇めるがよい!
どうしよう。今更だけど不安になってきた。