ばち
掲載日:2026/03/28
彼は四歳になったばかりだった。
お店で見つけたゲームが、どうしてもほしくなった。
母親はレジで別のものを買っている。
そのすきに、小さな箱を服の中に入れた。
誰にも見つからなかった。
家に帰ると、さっそくゲームで遊んだ。
画面は明るく、音も楽しい。
でも、ふと思い出した。
「悪いことをすると、ばちが当たるのよ」
母親の言葉だ。
少しこわくなって、周りを見回した。
何も起きない。
安心して、またゲームを始めた。
次の日も、その次の日も、何も起きなかった。
ばちは当たらないらしい。
やがて、男の子は大きくなった。
欲しいものは、自分で手に入れられるようになった。
誰にも見つからなければいいのだと、自然に覚えていった。
そしてある日、彼はもっと大きなものを手に入れた。
もちろん、誰にも知られずに。
その夜、ふと昔のことを思い出した。
ばちは、当たらなかった。
彼はそう思って、眠りについた。
数日後、ニュースが流れた。
不正が発覚し、会社は倒産。
多くの人が職を失ったという。
画面の中で、頭を下げている男がいた。
四歳のとき、初めて盗みを覚えた、あの子だった。
ばちは、ずいぶん遅れて当たることもあるらしい。




