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異世界転生してパワハラ上司を駆逐してたらいつの間にか偉くなってた  作者: ぽてと


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第8話 マクロ機能と、究極のコスト削減

僕は案山子の前に立ち、軽く息を吐き出した。


背後では、クラウスが訝しげな視線を向けているのが気配でわかる。平民出身の新人が、貴族の嗜みである魔法を語るだけでなく、実践しようというのだ。魔法技術に対するプライドが高い彼からすれば、到底信じられない光景だろう。


「アレン……君は魔力を持っているのか。だとしても、まともな教育を受けていない君に、構築式の最適化など実演できるはずがない」

「おっしゃる通り、僕の魔力量は平民の平均レベルです。大魔法使いのような巨大な炎など、逆立ちしても出せません」


僕は右手を静かに案山子へと向けた。

前世の過酷な労働環境で学んだ最も重要な教訓の一つ。それは、リソースが限られているなら、徹底的なコスト削減と費用対効果の最大化を図るしかないという事実だ。


魔力量という予算が少ないなら、無駄なプロセスをすべて削ぎ落とし、最短距離で目的を達成するプログラムを組めばいい。


「先ほど先輩が削りすぎてしまった『ターゲットの座標指定』。これを詠唱の最後に組み込むから、処理が追いつかずエラーを吐くんです。目標のロックオンは、システムを起動する前に済ませておくべき『前提条件』ですよ」


僕は案山子の胸元、装甲の隙間にある脆い部分に視線を固定した。

すでに、頭の中では必要なコマンドの入力が完了している。炎の温度、形状、射出速度、そして着弾点。それらの変数を事前に定義し、ひとつのパッケージとして脳内に保存する。


現代ビジネスで言うところの『マクロ機能』の構築だ。よく使う一連の作業手順をあらかじめ記録しておき、ボタン一つで呼び出せるようにする技術である。


「準備は完了です。あとは、実行ボタンを押すだけ」


僕は一切の詠唱を行わず、ただ指先で小さく弾くような動作をした。


「――実行」


音もなく、僕の指先から小さな青い炎が撃ち出された。

それはクラウスが放ったような豪快な火球ではない。親指の先ほどの、頼りないほど小さな炎の弾だ。

だが、その小さな青い炎は一切のブレもなく直線を描き、僕が視線でロックオンした案山子の胸元の隙間へと正確に吸い込まれた。


パァン、と乾いた音が弾ける。

小さな炎は案山子の内部でピンポイントに炸裂し、内側から構造を焼き切り、首の部品をポロリと地面に落とさせた。


「なっ……」


背後で、クラウスが言葉を失う気配がした。


「ば、馬鹿な。今、君は一言も詠唱しなかった。精霊への呼びかけも、炎の定義も、何も……。それなのに、あの精密な座標指定と、一点に熱を集中させる高度な魔力操作……」


クラウスは足をもつれさせながら案山子に駆け寄り、焼け焦げた切断面を食い入るように見つめた。


「圧倒的な高熱を極小のサイズに圧縮し、さらに無詠唱で放ったというのか。しかも、魔力のロスが完全にゼロだ。こんな、こんな洗練された美しい術式……古代教本のどこを探しても存在しない」

「美しくなどありませんよ。ただ、無駄な業務フローを削り落とし、効率を極限まで追求した結果です」


僕は肩をすくめて答えた。


「詠唱とは、魔法を構築するための入力作業に過ぎません。なら、毎回手入力するのではなく、事前にプログラムを組んで脳内にショートカットを配置しておけばいい。そうすれば、タイムラグなしでいつでも魔法を引き出せる。これこそが、限られたリソースで最大の結果を出すための『コスト削減』です」


クラウスは案山子からゆっくりと振り返り、銀縁眼鏡の奥の目を大きく見開いて僕を見た。

先ほどまでの、新人を小馬鹿にするような態度は微塵もない。そこにあるのは、自分より遥かに高度な論理体系を構築した技術者に対する、純粋な驚愕と畏敬の念だった。


「事前に構築し、ショートカットを配置する……。詠唱という行為そのものを省略する、究極の最適化……」


クラウスはブツブツと呟きながら、震える手で自身の額を押さえた。彼の優秀な頭脳の中で、今まで信じて疑わなかった魔法体系の常識がガラガラと崩れ去り、新たなパラダイムシフトが起きているのが手にとるようにわかる。


「先輩の膨大な魔力量と出力があれば、この無詠唱システムはさらに絶大な威力を発揮するはずです。どうですか。過去の遺産レガシーシステムにこだわるのをやめて、僕と一緒に魔法の業務改善をしてみませんか?」


僕が手を差し出すと、クラウスはゴクリと唾を飲み込んだ。

魔法技術の限界に壁を感じていた彼にとって、僕の提示した論理は、暗闇に差し込んだ一筋の強烈な光だったに違いない。


この瞬間から、彼の圧倒的な魔力と知識は、第七小隊の強力な固定砲台として機能し始めることになる。

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