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異世界転生してパワハラ上司を駆逐してたらいつの間にか偉くなってた  作者: ぽてと


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第7話 魔法のデバッグと、変数の最適化

地面に木の枝で描かれた簡素な図解。

それを見たクラウスの銀縁眼鏡の奥で、知的な光が鋭く瞬いた。


「……なんだ、この奇妙な図式は。魔法陣のようにも見えるが、魔力を流すための幾何学的な構造が全くないじゃないか」

「これはフローチャートといって、作業の手順や情報の流れを視覚的に整理したものです」


僕は手元の枝で、地面に描いた図の最初のブロックをトントンと叩いた。


「先ほどのクラウス先輩の詠唱を分析させてもらいました。大きく分けて四つのプロセスが存在していますね。第一に『精霊への呼びかけと認証』、第二に『炎という現象の定義』、第三に『威力の調整』、そして最後に『対象への射出コマンド』です」


クラウスは息を呑み、信じられないものを見るような目で僕を見つめた。

魔法の詠唱などただの呪文の丸暗記だと思っている大半の兵士たちとは違い、彼は魔法の構造そのものを独自に研究してきた技術者だ。僕が指摘したプロセスの分割が、魔法の真理を正確に突いていることに気づいたのだろう。


「なぜ、ただの平民の君が魔法の構造式を理解している……?」

「構造を理解しているわけではありません。ただ、物事を論理的に細分化するのが得意なだけです。そして、細分化して見えてきたのが、先輩の詠唱の圧倒的な『冗長性』です」


僕は枝を滑らせ、第二のプロセスである『炎という現象の定義』のブロックにバツ印をつけた。


「たとえば『赤き情熱と破壊の力』といった修飾語。魔法を発動させるシステム、つまりこの世界そのものに対して、毎回毎回『炎とは熱くて赤いものです』と説明する必要が本当にありますか? 炎の性質はすでに世界にインプットされている『定数』のはずです。わざわざ口に出して再定義するのは、処理メモリの無駄遣いですよ」


「なっ……! 定数だと……? だが、教本には炎の性質を強くイメージし、言語化することで威力が上がると記されているんだぞ」

「それは初心者がイメージを固めるための補助輪です。先輩のように魔力操作に長けた熟練者なら、炎のイメージなど無意識の領域で構築できているはずです。すでに理解しているマニュアルを、作業のたびに一から音読しているようなものです」


前世の職場で、エクセルのマクロ機能を使えば一瞬で終わる集計作業を、頑なに手打ちで行っていたベテラン社員を思い出す。

伝統や過去の教本に縛られ、最適化を怠る組織は必ず停滞する。魔法という技術体系も例外ではないのだ。


「さらに言えば、第一プロセスの『精霊への呼びかけ』。これも毎回行うのは非効率です。接続プロトコル……つまり、魔力で精霊とのパスを一度繋いだなら、戦闘中は常に通信を開いたままにしておくべきです。そうすれば、次回からは第三、第四のプロセスだけで魔法が発動できる」


僕の指摘が進むにつれ、クラウスの顔から反発の色が消え、代わりに未知の技術体系に触れた技術者特有の、熱狂的な興奮が浮かび上がってきた。


「……信じられない。君は、古代から続く魔法の構築式から、不要な記述を完全に削ぎ落とせと言っているのか。そんなことをすれば、術式が崩壊して魔力暴走バグを引き起こす危険がある」

「ええ、ですからまずは『デバッグ』を行うんです。不要な部分を少しずつ削り、どこまでなら正常に動作するかをテストする」


僕は枝を捨て、一歩下がってクラウスに場所を譲った。


「理屈はすでに理解されたはずです。頭脳明晰な先輩なら、僕の提示した『変数の最適化』をすぐに実践できるのではありませんか?」


挑発するように告げると、クラウスは口元を歪めて不敵に笑った。

自分の知性と技術に対する強烈な自負。それこそが、優れたエンジニアの証である。


「……面白い。ただの思いつきか、それとも真理か。僕の魔力計算で証明してやろう」


クラウスは案山子に向かって手をかざし、目を閉じた。

彼の口から紡がれる詠唱は、先ほどとは全く異なるものだった。無駄な装飾や精霊への過剰な挨拶を切り捨て、純粋に『炎を生成し、撃ち出す』という必須のコマンドだけが抽出されていく。


「……虚空より出でて、灼熱の矢となりて飛翔せよっ!」


詠唱時間は三分の一以下に短縮されていた。

見事な最適化のセンスだ。だが、放たれた炎の矢は案山子の大きく右へ逸れ、訓練場の土壁に着弾して虚しく弾け散った。


「な、なぜだ……っ! 威力は申し分ないはずなのに、軌道が完全にブレた」

「惜しいですね。不要なコードを削りすぎたせいで、肝心の『ターゲットの座標指定』という必須変数まで抜け落ちてしまっていたようです」


悔しそうに眼鏡を直すクラウスの隣を通り抜け、僕は訓練用の案山子の前へと進み出た。


「理屈だけでは納得できないでしょう。次は僕が、先輩の構築式を完全にデバッグした『完成形』をお見せします」

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