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異世界転生してパワハラ上司を駆逐してたらいつの間にか偉くなってた  作者: ぽてと


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第5話 監査と内部統制。右腕となった少年兵

第七小隊の第一倉庫が『ホワイト化』されてから数日が経過した。


かつてゴミ捨て場同然だったその場所は、今や王国騎士団の中でもトップクラスに整理された美しい保管庫へと変貌を遂げていた。

そして、その中心には常に、ダボダボの軍服を着た少年兵ティノの姿があった。


彼女……いや、僕の認識では真面目な少年兵であるティノは、僕が手渡した木板のバインダーを胸に抱え、今日も倉庫の入り口で検品作業を行っていた。


「あっ、先輩。予備のポーションを持ち出すなら、こちらの台帳に記入をお願いします」


ティノの凛とした声が響く。

相手は第七小隊に古くからいる、少し大雑把な性格の先輩兵士だった。彼は面倒くさそうに頭を掻き、ティノを睨みつけた。


「あぁ? なんだって俺がいちいち名前なんか書かなきゃならねえんだよ。昔は勝手に持っていってよかっただろうが」


「それは昔の話です。今は在庫管理のルールが変わりました。誰が、いつ、何を持ち出したかを記録しないと、いざという時に数が合わなくなって困るのは部隊の皆さんなんです」


ティノは一歩も引かなかった。

以前の彼女なら、先輩に凄まれただけで涙ぐんで萎縮していただろう。だが今のティノには、僕が与えた『在庫管理の主担当』という明確な役割と、責任感がある。自分の仕事に誇りを持っている人間の目は、決して理不尽に怯えたりはしない。


僕は少し離れた場所からその様子を観察し、小さく頷いた。

前世の記憶を振り返っても、部下が自律的に働き始める瞬間というのは、マネジメント層にとって最もやりがいを感じる瞬間である。


「ちっ、堅苦しい部隊になりやがって。ほら、書けばいいんだろ、書けば」


先輩兵士は渋々といった様子で台帳にサインを乱れ書きし、ポーションをひったくるようにして去っていった。

ティノは台帳の記載漏れがないかをしっかりと確認し、ほっと息を吐いてから僕の方へと小走りで駆け寄ってきた。


「アレン、見てくれた? ちゃんとルール通りに運用できてるよ」


ティノは少し上目遣いで、褒めてほしそうにバインダーを掲げてみせた。

ウルフカットの茶色い髪が揺れ、またあの石鹸のような良い香りがふわりと漂う。やはり、どう見ても過酷な軍隊生活には似合わない清潔感だ。きっと彼なりに、身だしなみというビジネススキルを大切にしているのだろう。


僕はティノの頭にポンと手を置き、その働きを率直に評価した。


「見事な対応だったよ、ティノ。理不尽な圧力に屈せず、業務フローを遵守させた。資材の持ち出しログを正確に残すことは、無駄遣いを減らすだけでなく、将来的な横領や不正を防ぐための重要な内部統制でもある。君はもう、立派な僕の右腕だ」


「右腕……えへへ、僕がアレンの右腕……」


ティノは顔を真っ赤にして照れ笑いを浮かべた。

その笑顔はひどく愛らしく、同性の少年兵に向けるには少しばかり胸がざわつくような感覚を覚える。だが、僕はすぐにその感情を『優秀な部下への親愛の情』として処理した。恋愛感情など入り込む余地はない。僕の頭の中は、この絶望的なブラック小隊をいかにして定時退社できるホワイト職場に改革するかで一杯なのだから。


「よし、倉庫の兵站管理については、完全に君に一任できそうだ。僕は次の業務改善フェーズに移行しようと思う」


「次の改善? 次はどこを直すの?」


首を傾げるティノと共に、僕は倉庫の外へ出た。

視線の先にあるのは、第七小隊の訓練場だ。そこでは兵士たちが剣術や魔法の訓練を行っているが、僕の目には無駄な動きばかりが映っていた。


特に気になったのは、訓練場の隅で一人、延々と長い呪文を唱え続けている白髪の眼鏡の青年だ。


「……闇より出でし炎の精霊よ、我が呼び声に応え、その身を焦がす熱情をもって目の前の敵を焼き尽くせ……」


彼はぶつぶつと早口で何かを唱えているが、一向に魔法が発動する気配がない。周囲の兵士たちは「またあいつか」「詠唱が長すぎて実戦じゃ役に立たないんだよな」と冷ややかな視線を送っていた。


前世の記憶を持つ僕には、彼のやっていることが『無駄に長いだけの非効率なプログラムコード』を延々と打ち込んでいるようにしか見えなかった。


「ティノ、あの眼鏡の彼は?」


「えっと、クラウス先輩だよ。頭はすごく良いらしいんだけど、魔法の詠唱が長すぎていつも怒られてるんだ」


「なるほど。システム構築の知識はあるが、最適化の概念を知らないプログラマーといったところか」


僕は首に巻いたスカーフを少しだけ緩め、次なる監査対象を見据えた。


倉庫のハード面は整った。次は、人材というソフト面のデバッグ作業だ。

僕はクラウスの元へ向け、確かな足取りで歩みを進めた。

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