第1話―エピローグ
その後ふたりは大急ぎで廃ホテルをあとにし、最初に待ち合わせたコンビニに戻ってきた。円はまたコーヒーを、省吾は例のプロテインを飲んでいる。
「なんで、いきなり飛びかかっていったの?」円は尋ねた。
「攻撃されたならいいかなと思って」と省吾。「空手に先手なしですからね」
またなにか標語のようなことを言ったが、円は無視した。
「普通オバケに殴りかからないでしょ?物理的存在じゃないんだから」
「でも、目に見えて、そこに居るんなら、殴れるかと思って」
「殴れたの?」
「はい。人体とは違う手応えですが、なにかを殴っている感覚はありました」
もうなにがなんだかわからなかった。円のオカルト的常識がグラグラと揺らいでいる。でも――まあいいや。理屈じゃ説明できないことも悪くない。オカルトなんて元からそんなもんだ。
今夜は最高に楽しかったのだ。これまで生きてきて一番かもしれない。
「有明くんは楽しかった?」
「はい、久しぶりに思いっきり闘えました」省吾は拳を掲げる。
円はその言葉を聞いて満足した。ふたりとも楽しめたのなら、初めての心霊スポット探索は上々の結果だろう。動画も写真も撮れなかったのは惜しいが、ともかく無事に戻ってこれたのだし。
「あ~あ、なんか疲れたね。そろそろ帰ろっか」
「そうですね」省吾は頷く。「神谷さんはここまでどうやってきたんです?」
「ん?ああ、原チャ。向こうに停めてる」
「そうですか、なら大丈夫ですね」
円はキョトンとした顔で省吾を見つめる。
あっ、こいつ、私を心配してくれたんだ。円はそう気がついて胸が熱くなるのを感じた。こんな空手バカでも、人並みの気遣いはできるんだ、と意外に思った。
「じゃあ、私は走って帰るんで、もう行きますね」省吾はそう言って立ち去ろうとする。
その背中へ向けて円は声をかけた。
「有明くん、今日はほんとうにありがとね」円はそれだけ言って、一瞬躊躇して続ける。「また次もいっしょに行ってくれる?」
その声に省吾は立ち止まり、くるりと振り返る。
「ぜひ!」省吾の顔が綻んだ。
それは彼が見せた初めての笑顔だった。
第1話 了
あとがき
どうもどうも、ここまで読んでいただきまして誠にありがとうございました。
本作はカクヨムさんで2025年11月から連載していたものです。ちょっと事情がありまして、こちらに移住してまいりました。
あちらではコメディというジャンルがありませんでしたので、ホラージャンルで登録していたんですが、ここまで読んでいただけたならおわかりでしょう。あまり怖くありません。基本的にはキャラクターの掛け合いがメインのコメディ小説です。
こちらはコメディジャンルもあるのでどうしようかなあと悩んだんですが、どうもコメディという枠の中でホラーやってるというよりも、ホラーという枠の中でコメディやってる気がするんですよね。それでホラーのままにしておきました。怖くはないんですけどね。
あちらでは毎日更新していましたので、ストックはすでに100以上あります。話数でいうと第7話+番外編といったところです。さらに第8話以降の構想もありまして、ここで落ち着いたら書き始めるつもりです。なのでしばらくは安心して読んでいただけると思います。
もしちょっとでも面白いなと思っていただけたなら、ブックマークやコメント、あとポイントの評価などいただけましたら、私がとても喜びます。それを原動力としてガシガシ活動していきますので、どうぞよろしくお願いします。




