第1話―8 対決!悪霊 vs 空手バカ
円はその時、探索に夢中になりすぎて、ここまで動画や写真をまったく撮ってこなかったことに気がついた。非常にもったいないことをしたと思った。でもこれだけは、絶対に撮らなきゃと、急いでポケットからスマホを取り出そうとする。ところが身体がまったく動かない。
あれ?これって、と思うと同時に、強烈な頭痛が襲う。視界もぐにゃぐにゃ揺れて、いまにも倒れそうだ。吐き気もこみあげてくる。
「有明⋯⋯くん、これ、霊障だよ、ヤバイよ」なんとか声は出た。
「はい、なんか頭が痛いです」やはり省吾も同じ状態のようだ。
映画や小説、漫画などで幾度も目にしてきた、円には馴染みのある状況だった。ただそれは、想像するのと実際そこに陥るのでは大違いだった。幽霊を見たいなどと浅はかな欲求を抱いた自分をほんの少しだけ恨みたくなるような、そんなネガティブな気分が襲ってくる。
「悪霊の⋯⋯精神攻撃だよ⋯⋯逃げなきゃ⋯⋯」
円の言葉を聞いて、省吾の表情が変わった。鋭い視線を目の前の不気味な影に向けている。そしてゆっくりと手に持った懐中電灯を床に置いた。
「⋯⋯攻撃、されてるんですね?」
省吾はそう言うと、返答を待たず、両手で空中に円を描き、掌を上下に構える。その手を前に押し出しながら、コォォォォと太く息を吐く。足元で床がミシリと鳴った。円がなにごとかと目を向けると、セイィヤァァァァーーと雄叫びとともに跳躍する。円にはとうてい信じられない距離を瞬時に縮め、黒い影へ飛び蹴りを放った。
(ちょっと、なにしてるの?この人)
省吾の奇行にはこの数日でかなり慣れたと思っていたが、いま目の前で繰り広げられている光景が、円には理解できなかった。
飛び蹴りは黒い影をすり抜けた。すぐさま振り向いた省吾は鋭い右の手刀を振り下ろす。そこから間髪入れずに左右の正拳を連打、連打、連打。
(いやいや、無理でしょ。オバケに物理攻撃効かないのなんて常識じゃん)
円は激しい頭痛に苦しみながらも心の中でツッコミを入れる。その間も省吾の烈火の如き攻めは止むことがない。突き、蹴り、肘、膝、手刀と、黒い影に叩き込んでいく。あれが生身の人間だったら、とても立ってはいられないだろう。
そうするうちに、円はだんだん頭の痛みが和らいできていることに気がついた。視界ももうハッキリしている。見ていると省吾の攻撃が当たる?ごとに、もやもやが少しずつ霧散していっているようだ。
(効いてるの !? )円はポカンと口を開けたまま見つめていた。
そしてついに、省吾の渾身の右正拳突きが空を裂き、黒い人影は跡形もなく消え失せた。円はあたりの空気がたちまち軽くなるのを感じた。




