第1話―7 探索!そして⋯⋯
ネットの情報通り、こじんまりとした部屋が並んでいた。部屋ごとの特色というのもあまり感じられない。円はまだこのような施設を利用したことがなかったが、もっとわかりやすく特徴付けた装飾や、広々とした浴室などが設置されているものだと思っていた。時代や客層によって異なるのだろうかと、円は推察した。
部屋の状態は様々で、ドアは開いていたり、閉まっていたり、ドアそのものがなくなっている部屋もあった。室内は朽ち果てたベッドの跡や、穴の開いた浴槽、壁には大きな鏡か絵画でもあったのだろう、四角い痕跡があった。
1部屋ずつ見て回り、2階に上る。危惧していた床の穴などもなく、安全に進めそうだった。2階の部屋も大差はなく、同じような間取りで並んでいた。そのちょうど真ん中あたりだったろうか。室内を探っていた省吾に声を掛けられた。
「これ、けっこう新しいスポーツ新聞ですね」省吾が慎重に紙面を開きながら言う。
「なになに、なんか面白いのあった?」円ははしゃいでいる。
「まあ、新しいと言っても何年も前のものですが。RIZINの桜庭 vs 青木の記事が載っています」
円にはよく理解できない単語が出てきたが、面倒なのでスルーすることにした。
「やっぱり誰かここで住んでたりしたのかな?」
「どうでしょうね。でも割と居心地はよさそうな気がします」
「そお?」
「ある程度の道具を揃えれば、山籠り修行の代わりに使えるかもしれません」
それでたまにやってくるヤンキー、浮浪者、反社会的組織等を蹴散らしていくのだろうか?
やはり円は曖昧に返事をして、深くは聞かないことにした。
そしてついに、肝心要の件の3階までやってきた。もう円のテンションは最高潮、アゲアゲMAX状態である。それでもはやる気持ちを抑え、手前から順に見ていく。円はおいしいものは最後に味わう派だった。
3階は1、2階よりもさらに荒れていなかった。やはりここまで上ってくる来訪者はぐっと少なくなるのだろう。それと部屋の大きさが下の階よりも大きく、その分、数が少なかった。もしかしたら少し高めの価格設定の部屋なのかもしれない。浴室のサイズも円がイメージしていたものに近い。
「けっこう立派なものですね」と省吾が言う。
「ほんとにねぇ。こんなとこに独りで泊まって焼身自殺って、どういう心境なんだろね?」
「つらいことがあったんでしょうねえ」省吾は真面目にしみじみと同情しているようだ。
「ああ、ダメダメ。そうやって霊に感情移入するのはいけないんだよ。優しくされると憑いてきちゃうって」円はそうたしなめる。言いながら、そりゃあ優しくされたらいっしょにいたくなるよね、と思った。
次はいよいよ、3階の一番奥、焼身自殺した男の霊が出ると噂される部屋だ。円は手前の廊下で大きく息をつくと、ゆっくりとした歩みで、その部屋へ近づいていった。
ドアはなく、中の様子は外からも伺える。事件後も改修してしばらくは営業していたのだろう。火事の痕などは見受けられなかった。やっぱり宿泊者も男の幽霊を見たのかな?自分もそこに泊まってみたかったな、などと危ないことを考えながら、円は最初の一歩を踏み入れた。
その瞬間だった。なにか室内の温度が急激に下がったような気がした。そのまま部屋全体が見渡せる位置まで進んでいく。すると、どこか粘度の高い空気が身体にまとわりつくような感覚。これまで味わったことのないような嫌な雰囲気が、円の全身の肌を粟立てた。
「有明くん、これ、わかる?」震える声で問いかける。
「はい、なんかゾクゾクしますね。強敵と対峙しているようです」またも円には理解できないことを言う。
しばらく二人とも立ち竦んでいたその時、部屋の隅でなにかの気配がした。円はそこへ目を向ける。じっと見ていると、周囲の闇がその一点に凝集していき、人影のようなもやもやを形成していく。すぐに逃げ出したいほど恐ろしいのに、目を離すことができなかった。
影はその場を動かないが、円にはそいつが自分たちを見ているという確信があった。




