第1話―5 心霊スポットに相応しい服装
「えっ、なに⋯⋯その格好⋯⋯」
円はあまりにも虚を突かれたために、うまく声が出なかった。
「一番闘いやすい服装で来ました」そんな円の様子など気にもとめず、省吾はいつもの通り生真面目な顔で応える。
ああ、うん、まああれだよね、靴を履いてるだけマシだよね、と円はポジティブに捉えた。省吾もさすがに裸足ではなく、動きやすそうなスニーカーを履いている。彼にしては十分な社会性だと思うことにした。
「靴はちゃんと履いてるんだね」
「はい、ここまで走ってきましたから。脱ぎましょうか?」
「いや、いい、大丈夫だから。心霊スポットは釘とかガラスとか、危ないものが落ちてたりするらしいから、履いてて、おねがい」
円はとりあえず気持ちを落ち着かせようと思った。
「有明くん、今日は付き合ってくれてありがとね。なんか飲む?お礼に奢るからさ」
「いえ、飲み物は持ってきました」と背負っているリュックから水筒と、なにか濁ったものが入ったボトルを取り出す。
「え?なにそれ、なに持ってきたの?」
「麦茶とプロテインです。闘ったあとに飲もうと思って」省吾はこともなげに言う。
もうあまり細かいことは聞かないようにしよう、と円は決心した。このまま続けると、あのリュックからもっといろんなものが出てきそうだ。
格好や荷物のことで言えば、実は円だって省吾にあれこれ口出しできるようなものではなかった。もう6月も半ばだというのに、分厚いカーキ色のジャケットを羽織り、下も同じ色の厚いカーゴパンツ。足元はガッシリとした登山靴だった。
極めつけは、いまはまだ身につけていないが、ヘッドランプを装着した頑丈な作業用ヘルメット。さらに大きめのリュックには、この日のために集められた、おそらく不要ななんやかんやが詰め込まれていた。どこか人跡未踏の山奥でも探索するつもりか?といった物々しさだった。
「じゃあ行こうか」円はその一言を発しながら震えがきていた。ついに念願の心霊スポット探索、武者震いというやつだった。




