第3話―5 みんなでファミレス
店は時間帯の割にさほど混んでおらず、すぐに窓際の席へ案内された。
弥幸は先に他のメンバーを座らせようとしたが、凛子がそれを許さず、まず弥幸を席に押し込め、その隣に自分の腰を落ち着けた。円は凛子の目の前は避けようと、先に座ったが、弥幸の正面という位置が気に入らなかったのか、一瞬ものすごい視線が飛んできた。
円の隣に座った省吾はさっそくメニューに手を伸ばし、ページを繰って真剣に検討している。ひとりこの場にそぐわない服装ではあるが、見ようによっては部活帰りに急遽駆けつけた人物と取れなくもない。
「今日はみんなに付き合ってもらうからさ、僕がごちそうするよ」弥幸がそう宣言する。「なんでもどんどん、ってわけにはさすがにいかないけどね。1人分ずつくらいなら好きなの選んでくれていいよ。
「ホントですか〜」言いながら凛子は弥幸に肩を寄せる。「ありがとうございま〜す」
省吾も丁寧に頭を下げて礼を言い、円も「あざす」と不器用に言った。
円はありがたいというよりも、この先輩はけっこう羽振りがいいんだな、と訝しんだ。そこら辺の貧乏学生とは違うようだ。着ている服は――円にはあまりよくわからないが――小ざっぱりとしていて意外と高そうだし、乗っている車も軽とはいえ、その中では高い方のやつだ。ある程度余裕のある家なのか?それとも割のいいバイトでもやっているのだろうか?
とにかく全員注文を終え、ドリンクバーを取りにいく。凛子は自分が持ってくるからと弥幸に注文を聞いていた。尽くす女でもアピールするつもりなのだろう。円は動くのが面倒だったので、立ち上がった省吾にアイスコーヒー持ってきてと頼んだ。省吾に関しては円はもう無礼なまでにすっかり慣れきっていた。ちなみに省吾は、水を飲むからとドリンクバーは固辞していた。
「先輩、今日行く公園の電話ボックスって、アレですよね」円はふたりきりになった隙に尋ねる。
「ああ、そうそう、《《在るはずのない》》電話ボックスね。さっすがあ、よく知ってるね」
「まあネットで見ただけなんですけど」円は謙遜する。「そんなのってほんとにあるんですかね?」
「ウ~ン、僕もあそこには何回も行ってるんだけどねぇ」弥幸は自信なさげに言う。
「ちょっとちょっと、なに話してんですかぁ」円と弥幸がふたりきりなのに気がついた凛子が、大急ぎで戻ってきた。「ふたりだけで秘密の相談とか、やめてくださいよぉ」
「ハハハ、ごめんごめん」弥幸はサラッと謝る。「いや、今日行くところで起こるって噂の怪奇現象についてね⋯⋯」
凛子の表情が一瞬曇ったのを、円は見逃さなかった。どうやらこのギャルが怖いのが苦手という話は事実のようだ。弥幸と親しくなろうとかなり無理をしているのだろう。
弥幸も凛子の様子に気がついたようですぐにフォローを入れる。
「大丈夫、大丈夫。僕もう何回もあそこ行ってるけど、一度も変なことに遭遇したことないからね。今日はコリンちゃんに心霊スポットの雰囲気を知ってもらう程度だよ」
「そうですかぁ⋯⋯」と露骨にホッとした顔を見せる凛子。しかしすぐに気を取り直して、「いえいえ、私、大丈夫ですから。どこにでもついていきますから」と強がりを言う。
しかし円は知っている。この先輩の「遭遇したことない」がまったく信用に値しないことを。ちょっとおかしいくらいに霊感のない弥幸は、たとえ異常があっても気付くことができない。彼がなにも見なかったと言っても、そこになにもいなかった証明にはならないのだ。
その凛子の態度に気を使ったのか、その後たいしてこれから行く場所についての話はしなかった。オカルトとはあまり関係ない話を、主に弥幸と凛子がふたりで話した。省吾は省吾で注文した料理に集中している。
実は円は、省吾がなにを頼むのか少し期待していたのだが、いたって普通、というかかなりヘルシーなものだった。チキンのサラダと、納豆やオクラなどで和えた冷製うどん。
「それで足りるの?」と円が聞くと、「いまはこれで十分です」と省吾は答えた。詳しく聞き出すと、どうやら彼は1日に5食食べるのだとのことだった。なにか理屈のようなことを言っていたが、円は面倒になって適当に流した。




