第3話―3 公園の電話ボックス
「今夜って⋯⋯今夜ですか?」円は間の抜けた問いをする。
弥幸はにこやかに「うん」と頷き、その場にいる1年生3人を見渡した。
「どう?急だけど、今夜ってなんか予定とかある?」
「いや、まあ予定はとくにないですけど⋯⋯」円はボソボソと返す。
「私も問題ないです。行けます」省吾は乗り気なようだ。
しばらく声が出なかった凛子は、円たちの返答を受けて、意を決したように弥幸を見た。
「もっちろ〜ん、コリンも行きますよ〜」不安は決して表に出さず、整えられた甘い声。「先輩のお誘いを断るわけないじゃないですか〜。予定があってもそんなのドタキャンですよぉ」
「ああ、無理はしなくていいからね」弥幸は凛子の様子をうかがう。「そう?大丈夫ならよかった。コリンちゃんがやる気出してくれてホントうれしいよ」
円としては心霊スポットへ行けるのならやぶさかではない。しかし、弥幸はいいとして、このギャルである。本当にやる気などあるのだろうか?円の目にはどう見ても弥幸に媚びているだけとしか映らないのだが。
彼女といっしょにというのがどうにも気が進まなかったが、結局は諦めた。もう予定がないと明かしている以上、ここからのうまい断り方もわからないし、省吾も行くつもりみたいだし。ギャルの相手はきっと弥幸がやってくれるだろう。となると問題はどこへ行くかだ。
「それで、どこかいい場所があるんですか?」円は尋ねる。
「そうだね~、いろいろ候補は思いつくけど、今回はコリンちゃんが初参加だから、なるべく行きやすい場所がいいよねえ」言いながら弥幸は部室に備え付けのパソコンをカタカタやりだす。
凛子は弥幸の気遣いに胸を撫でおろした。これなら初心者向けの緩めのやつを選んでくれるだろう。人数もいることだし、適当にキャーキャー怖がっていればいいだけだ。なんならどさくさ紛れに弥幸に抱きついてやろうと企んだ。
「あった、ここだ」弥幸は声をあげ、3人を手招きする。「ほら、ここならそんなに遠くないし、いいでしょ?僕が車出すからさ。4人だとちょっと狭いけど我慢してね」
「M本公園か⋯⋯」円は呟きながら記憶を探る。
そこは霊園に隣接した公園墓地で、心霊スポットとしての知名度は中程度だ。昼間は明るくひらけた良い雰囲気の場所だが、夜になると一転、寒々とした印象に変わるという。霊園なだけに様々なパターンの霊の目撃談もあった。そしてここの一番の見どころは⋯⋯
「ここに夜に行くとね、ずっとベルが鳴り続ける電話ボックスがあるらしくてね」
「へえ、電話ボックスですか。いまどき珍しいですね」省吾が口を挟む。円としては省吾が ”いまどき“ を語ることのほうがずっと珍しいと思ったが、まあそれはいい。
「そう、電話ボックス。まあ怪談としてはよくある話だよね。ベタもベタなやつなんだけど、ここが面白いのは⋯⋯」
弥幸がそう言いかけた時、3限目の終了を告げるチャイムが鳴った。
「ああ、いけない。4限目あるんだった」円はスマホで時間を確認する。
「私もです」と省吾。
「じゃあ今夜ここに行くってことで、決まりでいいかな?」
3人はそれに同意して、手早く待ち合わせの時間と場所を決めてから部室をあとにした。
廊下に出て、扉を閉めたあと、凛子は円をキッと睨みつけた。それからなにも言わずにプイッと顔を背けると、大きな歩幅で去っていった。
「怖えぇ」円の肝が冷える。
円にとってはこういう生きた同年代の女性の反応が何よりも恐ろしかった。脇の下に嫌な汗をかいている。それで省吾の反応が気になり横目で見ると、いつも通り、なにも考えてなさそうな顔で突っ立っていた。




