第1話―2 野望潰えて⋯
それから時は過ぎ、もう6月も半ば。梅雨でジメジメとうっとおしい毎日が続いていた。そんな中、円はというと、あいも変わらず独りだった。
一応努力はしてみたのだ。それほど害のなさそうな見た目の女の子の隣に座ってみたり、用もないのに大学内をあちこちうろついてみたり。しかしなにも起こらなかった。当然である。ただ黙って横に座る知らない人に、用もないのに話しかけてくるわけがない。うつむきがちにキョロキョロあたりを見回して歩いている不気味な他人に、誰が声を掛けてくれるだろう。
円もわかってはいる。自分から話しかけなければなにも起こらないということは。でもどうしてもダメだった。明日こそは、明日こそはと先送りにするうちに、グループも形成され、いまさら入り込む余地などなくなってしまった。
それで今日もボッチ飯。大学にはおしゃれなカフェテリアも設置されているが、そんなところ近寄ったことすらなかった。安さが売りの普通の地味な学食にすら入れない。毎日自宅で炊いたご飯をおにぎりにし、ラップで包んで持っていった。それを人けのない空き教室や、非常階段、時にはトイレの個室で食す。円の心はこの梅雨空よりも暗く、どんよりと曇っていた。
ところで例の欲求についてだが、一向におさまる気配がなかった。むしろ日々高まってきているのが自覚された。ひとりでいる時間が長いため、それ以外のことへは気持ちが向かないのだ。ひとり暮らしの身では家族というストッパーもない。もはや暴発するのは時間の問題だった。現に心霊スポット探索に必要になりそうな懐中電灯やヘッドライト、救急セットや簡単な工具の類など、少しずつ収集していた。
あとは最後の勇気を振り絞るだけ。単独で心霊スポットへ突撃している動画なんてたくさんあるじゃないか。自分もああいうソロプレイヤーとして世に出ればいい。なあにヤバい事態に遭遇することなんてそうそうないはず。きっとそうに違いない。
円はそんなことを考えながら学内をウロウロしている。今日のボッチ飯の場所が決まらないのだ。屋外はしとしと雨が降ってるし、いつも使っている場所は軒並み誰かに使われているか、そこへ向かう通路をキラキラエンジョイ勢に塞がれているかしていた。最終手段のトイレまでなぜか盛況で、そんな中、個室へ入って食べ物の匂いを撒き散らすなんてできるはずがなかった。
早くしないとお昼休みが終わってしまう。空腹で講義を受けて、お腹が鳴ってしまったらどうするんだ、と円は焦っていた。そんな恥ずかしいこと耐えられない。自分にはそれを笑い話にしてくれる友人もいないのに。
そこで円はいつもの行動範囲からさらに足を伸ばした。いつもはお昼には行かない3号館へ行ってみよう。あそこは学食とかから離れているから、きっと空いている場所があるはずだ。
思った通り3号館に人けは少なかった。これなら、と円は2階の教室へ向かう。誰もいない薄暗い廊下を行く。教室はすべてドアが閉まっていて、中を覗くことはできないが、人の気配はない。円は一番手前の教室のドアに耳をつけ、様子をうかがう。よし、大丈夫だ、誰もいない。
昼休みもだいぶ遅くなっている。早く食べて、次の講義の教室の目立たない場所を確保しなくては、と気持ちばかり焦っていた。円は教室のドアを開けると、人に見られないようサッと中に飛び込んだ――のだったが、大きく跳ね飛ばされてしまった。教室のその位置にあるはずのないコンクリートの柱にぶつかった。
(コンクリートの柱?)
円はその感触を記憶していた。前に一度同じのを味わったことがある。顔を上げるとそこには男子学生が奇妙な姿勢で立っていた。




