第2話―4 怪奇!旧道を彷徨う白装束
海沿いの県道を順調に進んでいくと、脇にそれる狭い道が見えてくる。そこが旧道で、曲がりくねった細く緩やかな坂道を少し登っていったところに、目的の旧S広隧道がある。
円はその道の少し先の、ひらけた空き地のような場所に車を乗り入れた。時間は22時をすこし回ったところ。
「車でそのまま行けるんだけどね。私は心霊スポットには歩いて行きたいんだよね」まだ探索初心者のくせに知ったようなことを言いながら、円はシートベルトを外す。
「じゃあ行きましょうか」と省吾も後部座席からリュックを取って、車を降りた。
円は懐中電灯を省吾に手渡し、自分はヘッドライト付のヘルメットを装着する。今回円は2度目で、車での移動だったこともあり、前回よりは軽装である。虫よけに長袖のシャツと長ズボンではあるが、そのまま街に繰り出しても違和感はないだろう。その分ヘルメットの物々しさが際立つようでもあるが。
「それじゃ、外灯もない暗い道だから、足下に気をつけて行きましょう。車が来ることは多分ないと思うけど、一応用心してね」言いながら歩き出す。
先頭は円で、省吾は後ろからついていく。省吾はボディガードとして、自分が前に出たいのだが、円は決して譲らなかった。やはり心霊スポットへの情熱は人一倍なのだ。
細い道がぐねぐねと曲がりながら続いていた。道は少し荒れていて、両脇からは長く伸びた草が侵食してきている。ネット情報どおり外灯もない。こんなとこ誰も夜に歩かないよな、と円は思った。
「あっ」省吾の声。
「えっ、なにかあった?」円は一応尋ねる。どうせまたしょうもないことを言うのだろうと疑っていた。
「いま森の中になにかいましたね」
「え、ウソ、熊とかじゃないよね?」
「ここらへんに野生の熊はいませんよ」といって省吾は笑う。「おそらく鹿じゃないですかね」
円はホッとして、一瞬頭をよぎったことを尋ねてみる。
「もし熊だったら、有明くんどうするの?闘うの?」
「どうでしょうね。もう絶対逃げられないとなったら闘うでしょうね」
「勝てる?」
「いえ、いまの私ではまだ無理でしょう」
「さすがにそうだよね」相づちを打ちながら円は、ん?と気がつく。こいつ ”まだ“ と言ったか?そのうち勝てるようになるつもりなのか。円に戦慄が走った。
そんな話をしていた時だった。下から自動車のエンジン音が聞こえてきた。ふたりは慌てて道の端に寄り、伸びた草を踏む。ライトが一瞬眩しく視界を奪い、ふたりは顔の前を手で覆った。あまりスピードを出していなかった車はそのままの速度で通り過ぎていった。
「こんな時間にも車くるんだね」円は再び道に戻りながら言った。
省吾も「そうですね」と言いながら車が行った先へライトを照らす。道がカーブしているため、もう車の姿は見えない。
「でも向こうもさ、こんな時間に人が歩いてるなんて思わないよねぇ⋯⋯」
円は笑いながら、横に立った省吾を見て思った。いやいや、こんな時間に白い服着た人がこの道を歩いてるって、ありえないでしょ、と。絶対まともな人間とは思われないよ。円は見慣れてしまっていたが、省吾の白い空手着はやはり心霊スポットには異質だった。
あれ?これいままさに心霊目撃談作っちゃってない?




