第88話 雷水神《ヴァル=ネレイオス》 ――神話層・精霊神との戦い
世界樹が道をしるし、扉が開いた。
入った瞬間、空が、割れた。
否。
割れたのではない。
**水と雷が、同時に“降ってきた”**のだ。
天井も、壁も、距離も意味を失う。
空間そのものが、巨大な海となり、雷の檻となる。
次の瞬間――
大津波が、何の前触れもなく襲いかかった。
「――っ!」
サラは反射的に弓を引くが、射線など存在しない。
波は“前方”から来たのではない。
世界全体が水へ変わったかのようだった。
『我が張る!』
水の精霊王が咆哮し、
サラの前に巨大な防御膜を展開する。
だが――
押される。
膜が、悲鳴を上げる。
水圧が、存在そのものを潰しにかかる。
『――耐えきれぬ!』
その瞬間。
『来い!!』
風の精霊王が、
防御膜の外側に嵐を叩きつける。
『我もだ!』
大地の精霊王が、
足場そのものを隆起させ、水を受け止める。
三体の精霊王。
本来、同時に全力を出すことはない存在。
だが、今は違う。
それでも――足りない。
雷が、落ちる。
水の中を走る雷。
逃げ場は、ない。
『ぐ……っ!!』
イルクが弾かれ、
ベヒモスの身体に亀裂が走る。
『サラ……!』
クラーケンの声が、苦しげに歪む。
そして――
三体の精霊王が、同時に何倒れた、、
「……そんな……」
サラの視界に、
自分のステータス画面が浮かび上がる。
《精霊女王:不完全》
その文字が、胸を刺す。
(……私は、まだ……)
弓術10。
精霊術10。
魔法10。
セージ10。
それでも――
神の前では、足りない。
その時。
「サラ、下がれ!!」
ユウトが前に出た。
彼の手にある剣は、
もう精霊王の剣ではない。
風雷神の剣。
暴風神テンペストが、自らを捧げて形を変えた、
神と戦うための神の剣。
雷が、ユウトを狙う。
だが剣が唸る。
風と雷が、同時に走る。
**雷水神《ヴァル=ネレイオス》**が、
初めて“視線”を向けた。
『……ほう』
声が、海鳴りのように響く。
『人の身で、神の剣を持つか』
雷と剣が激突する。
互角。
だが――
互角は、敗北を意味する。
神は疲れない。
人は、削れる。
ユウトの呼吸が荒くなる。
(……このままじゃ……)
その時、
炎が、囁いた。
『サラ』
炎の精霊王。
『我は、破壊を司る』
『だが、破壊とは――再生への道だ』
サラは、震える唇を噛み締める。
『お前のMPを、ほぼすべて使え』
『《ペイン・フレア》を放て』
「……そんなことしたら……」
『我が、止める』
サラは、目を閉じた。
そして、弓を構えた。
MP、限界解放。
魂が、焼かれる感覚。
「――ペイン・フレア!!」
炎が、雷水神を貫いた。
だが――
『ぐ……っ』
イフリートが、崩れる。
炎が、消える。
『……ここまでか』
イフリートは、笑った。
『サラ……よく、やった』
そして――
消滅。
「……っ……!」
サラの膝が崩れる。
(私の……せいで……)
雷水神の最後の一撃が、放たれる。
だが。
炎が、再び生まれた。
燃え尽きたはずの場所から、
不死鳥――フェニクスが、羽ばたいた。
高らかな鳴き声。
炎が、循環する。
倒れていた精霊王たちが、立ち上がる。
サラのMPが、戻る。
ユウトの体力が、回復する。
「……再生……」
サラが、理解する。
その瞬間。
ユウトが、剣を構えた。
雷水神の攻撃。
ロクゾロ。
奇跡的な回避。
「――今だ!!」
四大精霊王の魔法が、
同時に放たれる。
風雷神の剣が、光を放つ。
雷水神《ヴァル=ネレイオス》は、
初めて崩れ――
撃破された。
嵐が、静まる。
サラは、涙を拭いた。
精霊女王は、不完全でも――
確かに、前に進んだ。
そしてユウトは、理解する。
この戦いは、
神を倒すためのものじゃない。
神話を、終わらせるための戦いだ。




