第84話 闇の王との闘い
ユウトは、剣を構えた。
踏み込む距離ではない。
斬り合う相手でもない。
これは――
切り離すための一撃だ。
精霊王の剣が、静かに鳴る。
イフリートの熱。
クラーケンの流れ。
ベヒモスの重み。
3つの精霊王が、剣の内側で完全に噛み合う。
世界樹の根が、低く軋んだ。
「……今だ」
ユウトが、踏み出した瞬間だった。
闇が、動く。
闇の精霊王が、風魔神の影から引き剥がされるようにして、
こちらへ跳び出した。
速い。
いや――
概念として近い。
距離も、速度も、反応も無視して、
“存在そのもの”が喉元へ滑り込んでくる。
ユウトの視界が、真っ黒に染まる。
(……回避、間に合わない)
剣を振るう暇もない。
防御も意味を成さない。
次の瞬間――
世界が、わずかに“傾いた”。
カチリ、と。
頭の奥で、確かな感覚。
二つの目。
六と六。
六ゾロ。
闇の精霊王の爪が、
ユウトの心臓を貫く“はずだった”軌道から、
ほんの紙一枚分、逸れた。
致命が、致命でなくなる。
ユウトは、反射で転がり、
嵐の外縁へ滑り出た。
「……っ!」
闇が、怒りを孕んで膨張する。
『偶然だ』
『次は――』
だが、その「次」は来なかった。
光が、割って入る。
光の精霊王《ルミナ=エルディア》。
『今だ、剣士』
光が、剣へと流れ込む。
精霊王の剣が、
初めて“白く”輝いた。
ユウトは、理解する。
(……切るんじゃない)
(分ける)
闇と風。
神と神。
重なり合ってしまったものを、
元の形へ戻す。
ユウトは、剣を振り抜いた。
――闇の精霊王へ。
だが。
闇は、剣を呑み込んだ。
光も、炎も、水も、大地も、
一瞬で押し返される。
世界が、裏返る。
ユウトの意識が、引きずり込まれる。
(……まずい)
(このままじゃ――)
闇の中で、声が嗤う。
『剣ごと、貴様を――』
その瞬間。
もう一度、世界が止まった。
ユウトの中で、
最後の切り札が、静かに転がる。
六と六。
六ゾロ。二度目。
世界が、「結果」を選び直す。
闇が、ほんの一瞬だけ――
“解放される未来”を許された。
その隙を、光が逃さない。
『今だ!!』
ルミナ=エルディアの光が、
剣の中心へと集中する。
精霊王の剣が、
闇を拒絶する形へ変わった。
ユウトは、叫ぶ。
「――戻れ!!」
剣が、振り下ろされる。
斬ったのは、闇ではない。
繋がりだ。
闇の精霊王がテンペストを拘束していた鎖が、千切れる。
そして――
嵐の中心から、
“風だけ”が、剥がれ落ちた。
『……ああ……』
暴風神テンペストの声。
苦しみでも、怒りでもない。
安堵だった。
嵐が、静まる。
暴風神テンペストが、
膝をついた。
『……礼を言う』
『剣士よ』
テンペストは、ユウトを見る。
『我は、解放された』
『再び――世界を守る者として』
世界樹が、深く、深く鳴った。




