第82話 ユウトの決断
ユウトは、はっきりと感じ取っていた。
――サラが、変わった。
姿形ではない。
装備でも、魔力の量でもない。
**“立ち位置”**が、違う。
暴風が渦巻く空間の中心で、サラは立っていた。
以前なら、後方。
弓を構え、精霊と対話し、援護に徹する位置。
だが今は違う。
精霊王たちが、彼女の背後に“並んでいる”。
守るためではない。
命じられているわけでもない。
――承認している。
(……何だ、あれ)
ユウトの視界に、サラのステータスが強制的に浮かび上がる。
称号:精霊女王
状態:解放準備中
「……精霊女王?」
知らない。
聞いたことがない。
TRPGのルールブックにも、
RPGゲームにも、
異世界転生モノの小説にも――
そんな称号は、存在しなかった。
(精霊王の上……?)
(神格……?)
考える時間は、ない。
風魔神テンペストが、再び力を集め始めている。
空間が、軋む。
暴風が、意思を持つ。
次は――
ベヒモスはもう頼れない
(……どうする)
ユウトの視界の端に、
自分自身のスキル一覧が流れる。
勇者スキル。
――20はある、、
しかも、知らないものだらけだ、、
(……読む暇がない、読むべきだった、、)
(そもそも、今から理解できる内容じゃない)
ユウトの思考は、急速に整理されていく。
永瀬佑都の記憶、、
(ヒトが、神に勝つ方法)
(ファンタジーで、何があった?)
魔法?
僧侶?
信仰?
――違う。
神は、倒されない。
神は、殺せない。
(なら……)
(神vs神?)
視線が、サラへ向く。
精霊女王。
精霊王たちを束ねる存在。
(でも……今は、間に合わない)
暴風が、さらに膨張する。
世界が、悲鳴を上げる。
(……待て)
ユウトの中で、
ひとつの“禁忌”が浮かび上がった。
コールゴット。
僧侶系、最大級の奇跡。
ダイス8以上で、
神が願いを聞く可能性がある、、7以下で石化だった?
1ゾロは消滅
(……神に、願う)
それは、賭けだ。
世界樹ですら、
この風魔神を封印するのが限界。
(できるのか……?)
失敗すれば、石化、即死。
成功しても、代償は未知数?
だが――
(……六ゾロ)
(あの奇跡に、賭けるしかない)
「サラ!!」
ユウトは叫んだ。
暴風の中でも、
彼女の意識は、こちらを向いた。
「今から――」
一瞬の沈黙。
サラは、理解した。ユウトは何かする
それで、十分だった。
ユウトは、剣を地面に突き立てる。
僧侶レベル10。
最大魔法
コールゴット‼️
これは、祈りではない。
命令でも、懇願でもない。
問いかけだ。
「――戦女神」
声を張る。
「アストライア=ヴァルキュリアよ」
世界が、一瞬、静まる。
「目の前の敵を――」
「滅ぼせ」
ダイスが、回る。
六と六。
六ゾロ。
奇跡。
だが――
世界樹の声?
『否』
即答だった。
冷たくもなく、
拒絶でもない。
『神の滅ぼしは、認めぬ』
『それは、世界の均衡を壊す』
『解放のみ』
『破壊ではない』
ユウトは、歯を食いしばる。
(……やっぱり、か)
その時。
戦女神の声が、響いた。
『世界樹の判断は、正しい』
『神の名をもつ者は同格ゆえ、私は滅ぼせない』
『しかし、攻撃を三十秒、止めることはできる』
ユウトの目が、見開かれる。
「……三十秒」
『それが、限界』
『その先は――』
言葉は、続かなかった。
ユウトは、叫ぶ。
「それでいい!!」
そして、はっきりと告げた。
「風魔神は、元は暴風神だ!!」
「壊すんじゃない!!」
「解放する!」
空間が、揺れた。
戦女神は、静かに頷く。
『混沌を止める力となるなら』
『それも、戦だ』
次の瞬間。
暴風が、止まった。
完全ではない。
だが――
確実に、三十秒。
ユウトは、サラを見た。
「行け!!」
サラは、頷いた。
精霊女王の名が、
初めて、彼女の中で“重さ”を持った。
神を殺すためではない。
神を、次の役割へ導くために。
そのための三十秒。
神話は、今――
更新されようとしていた。




