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『昔やっていたテーブルトークRPGの世界に転生し、精霊に好かれるところから始めます』  作者: ゆふぉん


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第七十八話 世界に認められし者-勇者-

 世界樹の根が、静かに脈打っていた。


 風もない。

 光も揺れない。


 それなのに、空間そのものが“満ちて”いく感覚だけがあった。


 ユウトは、無限ループの終点に立っていた。


 剣を構えなくても、戦闘態勢に入らなくても、

 ここではもう――戦いが始まらないことを、身体が理解している。


 限界だった。


 世界樹の内側は、静まり返っていた。


 音がないわけではない。

 だが、戦いの余韻も、精霊の囁きも、すべてが遠い。


 ユウトは白い大地に立ち、剣を下げたまま動かなかった。


 呼吸は整っている。

 鼓動も、平常だ。


 それなのに――

 胸の奥だけが、妙に重い。


(……来たな)


 感覚で分かる。

 これ以上、同じ場所には立っていられない。


 光が、視界の端に浮かぶ。


 ―― 魔法使い 、僧侶――

到達確認

Lv10


 頭の奥で、佑都としての記憶が冷静に結論を出す。


 剣術Lv10。

 精霊術Lv10。

 魔法使いLv10。

 僧侶Lv10。


 ユウトは、瞬きすら忘れた。


 魔法使い、僧侶レベル10。


 TRPGにおいて、魔法使いレベル10は終点だ。

 それ以上は存在しない。


 最上位魔法の完全理解。

 詠唱短縮の極限。

 魔力効率の限界。


 それは「強い」という言葉で片付けられるものじゃない。


 世界に干渉しすぎる存在。


 だが、表示は終わらなかった。


 (……これ、ゲームなら完全にアウトだ)


 ユウトの中で、永瀬佑都としての思考が浮かび上がる。


 TRPGでこれを許したら、物語は壊れる。

 バランスが崩れ、葛藤が消える。


 誰も死なず、誰も失わない世界になる。


(……でも)


 ここは、ゲームじゃない。


 死ぬ。

 失う。

 取り返しがつかない。


 だからこそ、

 この力は「万能」じゃない。


 光が、さらに集束する

 

 ―― 統合条件を確認 ――


(……統合?)


 そんな処理、TRPGには存在しない。

 職業は分かれているからこそ意味がある。


 専門性が、役割が、物語を作る。


 それを――

 統合する?


―― 未定義スキル群を検出 ――


 未定義。


 その文字が、異様に重い。


(ルール外だ)


(GM裁定……いや)


(世界そのものが、仕様を変えてる)


 光が、一つの言葉へと収束する


 世界樹の根が、深く軋んだ。


 音ではない。

 世界の認識が切り替わる感覚。


 視界に、見慣れない文字列が浮かび上がる。


――条件達成を確認――

――複数系統Lv10到達――

――世界樹承認:済――


 ユウトは、息を止めた。


 だが、次に現れた表示を見て、

 彼ははっきりと理解する。


 これは、祝福ではない。


――未定義スキルを検出――

――世界が役割を付与します――


「……世界が?」


 思わず、声が漏れた。


 文字が、ゆっくりと再構成される。


――クラス解放――

――《勇者》――


 一瞬、何も感じなかった。


 だが次の瞬間、

 身体の内側で何かが繋がった。


 剣と魔法。

 精霊と信仰。

 回復と破壊。


 今まで別々に管理していた“系統”が、

 一つの流れとして統合されていく。


(……ああ)


(これ、強化じゃない)


(責任だ)


 理解した瞬間、膝が落ちた。


 力が重い。

 意志が重い。


 勇者とは、前に出る存在じゃない。

 逃げられない立場に置かれる存在だ。


――勇者Lv1――

――経験値換算倍率:×10――


 数字を見た瞬間、佑都の記憶が反射的に計算する。


(……ふざけてる)


 これ、同じ努力で上がらない、○○スキル10個分?


(レベル10まで……)


 だが、次の表示が続く。


――現在の蓄積経験値を再計算――

――勇者Lv10到達――


 息を呑んだ。


 世界樹の無限ループ。

 半年間、毎日レベル10級と戦い続けた積み重ね。


 それだけで、ようやく辿り着ける数字。


 安易じゃない。

 奇跡でもない。


(……納得できる)


 最後の表示が、静かに浮かぶ。


――勇者とは――

――勝つ者ではない――

――世界が滅びぬよう、前に立つ者である――


 ユウトは、ゆっくりと立ち上がった。


 剣を握る感触は変わらない。

 魔力の量も、急には増えていない。


 だが――


 逃げ道が、完全に消えた。


(TRPGなら、ここでエンディングだ)


(でも……)


 彼は前を見た。


 世界樹の奥。

 第120層。


 風魔神と化したテンペストが待つ場所。


(ここは、現実だ)


(世界を守るなら)


(“主人公”じゃなくて――)


 剣を構える。


 自然な動作だった。


「……行くぞ」


 それは宣言ではない。

 覚悟でもない。


 役割を受け入れただけの声。


 世界樹は、何も言わなかった。


 だが、その沈黙こそが――

 勇者に与えられる、最初の試練だった。

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