第七話 王たちの語る終焉、そして同盟
剣の国が沈黙してから、七日後。
人間族七カ国の王が、中立都市の円卓に集められた。
理由は一つ。
剣の国が――滅びた。
誰も、その言葉を口にしようとはしなかった。
だが、全員が理解している。
剣王が立っていた国が、消えた。
「……報告を」
魔法の国の王が、静かに言った。
前に進み出たのは、書記官ではない。
剣の国に隣接する国境を守っていた、騎士団の副長だった。
顔色は悪く、声はかすれている。
「剣の国王都は……消滅しました」
円卓に、ざわめきが走る。
「天より巨大な魔法が降り注ぎ、
街は炎に呑まれました。
城壁は崩れ、古竜の咆哮は途中で途絶えました」
誰もが、息を呑む。
古竜の沈黙。
それは、国家の死を意味する。
「剣王は?」
誰かが問う。
副長は、一瞬だけ視線を伏せ、答えた。
「……王城で、戦死したと」
それだけだった。
片腕を失い、片目を失い、
それでも剣を手放さなかった王の姿を、
ここにいる誰も知らない。
記録に残るのは、
削られた言葉だけだ。
「つまり」
竜の国の王が、低く言った。
「剣の国は、メテオによって滅び、
剣王は、その中で倒れた」
「そうなります」
魔法の国の王は、否定しなかった。
否定できなかった。
真実は、
この場で扱うには重すぎた。
「黒耀帝国の関与は?」
「確証はありません」
嘘ではない。
だが、真実でもない。
「しかし」
魔法の国の王は続ける。
「黒耀帝国が動いているのは、確かです」
円卓の空気が、さらに重くなる。
「剣王が負けたのだぞ」
山の民の王が、拳を握る。
「なら、我々に何ができる?」
「だからこそ」
魔法の国の王は、静かに言った。
「我々は“剣の国が失われた”という事実だけを、
正確に受け止めねばなりません」
英雄の死ではない。
防壁の消失だ。
「剣の国が最前線だった」
魔法の国の王は、地図を示す。
「そこが落ちた以上、
次は、どの国であってもおかしくない」
沈黙。
その沈黙を破ったのは、自由都市の代表だった。
「……つまり我々は、
順番に滅びるのを待つか、
今ここで何かを決めるか、だな」
竜の国の王が、低く息を吐く。
「同盟とは、責任だ」
「承知しています」
魔法の国の王は、即座に応じた。
「だが、背負わなければ、
次は必ず自国になります」
剣王ですら、一国では耐え切れなかった。
それが、何よりの証明だった。
「条件を出そう」
竜の国の王が言う。
「同盟は結ぶ。
だが、指揮権は分散させる」
「賛成だ」
山の民の王が頷く。
「一国に集約すれば、
そこが折れた瞬間に終わる」
「資源、情報、冒険者は共有する」
自由都市の代表が続ける。
「だが、主導権は持たせない」
水の国の王が、ゆっくりと顔を上げた。
「……それでも、
攻められた国は、全力で助ける」
魔法の国の王は、静かに頷いた。
「それが、同盟です」
円卓に、短い沈黙。
そして、一人、また一人と、首を縦に振る。
それは熱狂でも、希望でもない。
ただの――
生き延びるための選択だった。
「よろしい」
竜の国の王が告げる。
「人間族七カ国。
ここに、防衛同盟を結成する」
剣王の名は、
この場で再び語られることはなかった。
彼の死は、
“戦死”という一行に削られた。
だが、その代わりに――
人間族は初めて、
一つの陣営になった。
それが、救いになるのか。
それとも、滅びを遅らせるだけなのか。
まだ、誰にも分からない。
ただ一つ確かなのは、
剣の国が倒れた日、
世界は、後戻りできなくなったということだけだった。




