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『昔やっていたテーブルトークRPGの世界に転生し、精霊に好かれるところから始めます』  作者: ゆふぉん


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第七十五話 記録と記憶

進もうとした、その瞬間だった。


 世界樹の根が、低く軋んだ。


 風が止み、

 光が止まり、

 音すら、消えた。


 時間そのものが、

 「待て」と命じられたかのように凍りつく。


『……進む前に』


 世界樹の声が、静かに、しかし確実に響く。


『主らが、戦わねばならぬ存在を』


『知らぬまま進むことは――

 勇気ではない』


 ユウトとサラの視界が、同時に白く染まった。


 意識が引き抜かれる。


 落下ではない。

 転移でもない。


 記憶の前へ、引き上げられる感覚。


 最初に映ったのは、空だった。


 夜ではない。

 昼でもない。


 色を失った空。


 次の瞬間、大地が沈む。


 山が崩れたのではない。

 山という存在そのものが、押し潰されていた。


 そして――

 それは現れた。


 暗黒龍。


 翼を広げた瞬間、

 大陸の端から端までが影に覆われる。


 光を反射しない鱗。

 輪郭を持っているはずなのに、

 どこか現実感がない。


 そこに「いる」という事実だけが、

 世界を圧迫している。


 咆哮。


 音ではなかった。


 世界の法則が、悲鳴を上げる感覚。


 都市が潰れ、

 城壁が溶け、

 人も、魔物も、区別なく消える。


 逃げ場はない。

 防御も、戦術も、意味を持たない。


 暗黒龍は、ただ進む。


 そこに敵がいたからでも、

 守るものがあったからでもない。


 存在するだけで、世界を壊すもの。


 その映像を見ながら、

 ユウトの中で、別の記憶が疼いた。


(……おかしい)


 永瀬佑都として生きていた頃。

 テーブルトークRPGの記憶。


(暗黒龍……?)


(そんな存在、ルールブックにはなかった)


 レベルの上限は10。

 伝説級装備が、せいぜい物語の切り札。


 メテオは、一戦で一度使えれば奇跡。

 それを連発する存在など――

 GMが世界を壊す覚悟を決めた時だけだ。


(レベル10以上……)


(それは、敵じゃない)


(災害だ)


 背中を、冷たい汗が伝う。


(今の俺は、確かに強い)


(剣術10、精霊術10、世界樹の加護)


(正直、TRPGならチート判定だ)


 だが、映像の暗黒龍を見て、はっきり分かる。


(……それでも、足りない)


(これがいるなら)


(俺は、まだ“対抗手段”でしかない)


 暗黒龍は、思考しない。

 説得も、交渉も、通じない。


 そこにあるのは、

 破壊が自然現象として振る舞っているだけの存在。


 映像が変わる。


 世界樹の根元。


 そこに集う、かつての精霊神たち。


 暴風。

 爆炎。

 雷と水。

 溶岩。


 いずれも、神話の時代に

 “世界を守る側”として存在していた力。


 だが――

 それでも、暗黒龍は止まらなかった。


 暴風神テンペストが前へ出る。


 嵐が極限まで圧縮され、

 空間が歪む。


 ユウトの脳裏に、TRPG的な判断が浮かぶ。


 「まただ••精霊神?そんな存在はなかった」


(……自爆技)


(しかも、世界単位)


 テンペストは、自身を削り、

 命そのものを賭けて、暗黒龍に突撃した。


 致命傷。


 確かに、それは通った。


 暗黒龍の動きが、初めて止まる。


 だが――


 倒れない。


 死なない。


 “致命”という概念が、通用しない。


 暴風神は闇の染まり、

 世界樹によって封じられた。


 第120層。


 映像が、静かに消える。


 ユウトとサラは、膝をついていた。


 息が荒い。

 魂が、削られた感覚。


『……これが』


 世界樹の声が戻る。


『主らが向かう先』


『神話の外側にいる存在』


 サラが、掠れた声で問う。


「……勝てるの?」


 ユウトは、すぐには答えなかった。


 前世の記憶が、冷静に整理されていく。


(通常の戦闘では、無理)


(正面から殴り合えば、確実に死ぬ)


(でも――)


(10ヶ月修行)


(体感100年分の経験)


(毎日、神話級と戦う前提)


(……これは)


(GMが用意した“唯一の勝ち筋”だ)


 世界樹が、静かに告げる。


『勝つ、ではない』


『終わらせるのだ』


『世界が、次へ進むためにな』


 ユウトは、ゆっくりと立ち上がる。


 恐怖はある。

 だが、逃げる理由はない。


(TRPGなら、ここで引き返す)


(でも、ここは現実だ)


(世界が滅ぶなら――)


(俺が、前に出る)


 扉の奥から、嵐の気配が漏れ出す。


 サラが、弓を握り直す。


 ユウトは、剣を構えた。


 知ってしまったからこそ、

 覚悟が定まった。


 これは無謀な挑戦ではない。


 世界樹が許した、最後の準備段階。


 そして――

 神話の入口に立つ者だけが、

 踏み込める場所だ。


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