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『昔やっていたテーブルトークRPGの世界に転生し、精霊に好かれるところから始めます』  作者: ゆふぉん


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第七十四話 限界の向こう側 ――神話の入口

 世界樹の内側は、今日も静かだった。


 戦いの音もない。

 魔物の気配もない。

 ただ、時間だけが、ゆっくりと――歪んで流れている。


 白い大地に張り巡らされた根は、脈打つように淡く光り、呼吸しているかのようだった。


 ユウトは、その中心に腰を下ろし、深く息を吐いた。


 膝の上には、精霊王の剣。

 もう重さを感じることはない。

 剣は、手足の延長として、完全に馴染んでいた。


 身体は、確かに強くなっている。


 筋肉の動き。

 魔力の流れ。

 精霊の気配。


 すべてが自然で、無理がない。


 だが――


(……ここから先は、別だ)


 ユウトは、目を閉じた。


 頭の奥に浮かび上がるのは、前世の記憶。


 永瀬佑都。

 学生時代、テーブルトークRPGに深く没頭していた自分。


 仲間と笑い、議論し、世界を作り上げていた日々。


 そこで、何度も見てきた。


 レベル10という数字が、物語を壊す瞬間を。


(TRPGで、レベル10は……)


 チートだ。


 GMが必死に調整しなければ、

 敵は意味を失い、

 選択は茶番になり、

 物語は崩壊する。


 だから必ず、縛りが入る。


 使用制限。

 世界的な代償。

 あるいは、到達不能。


(……でも、ここはゲームじゃない)


 ユウトは、ゆっくりと目を開けた。


 ここは、現実だ。


 数値の裏に、必ず死がある。

 失敗すれば、誰かが死ぬ。

 判断を誤れば、国が滅ぶ。


 守れなければ、終わる。


(だからこそ……)


 必要なのは、力だけじゃない。


 剣術。

 精霊術。


 それだけでは足りない。


(魔法……回復……信仰……)


 信仰。


 その言葉に、ユウトはわずかに眉をひそめた。


 宗教ではない。

 依存でもない。


 何を信じ、何のために剣を振るうのか。


 その“軸”の話だ。


 その瞬間――


 世界樹の空間が、静かに震えた。


 風もないのに、葉擦れの音がする。

 光が、一本の線となって、天から降りてくる。


『――ユウト』


 声は、精霊でも、世界樹でもなかった。


 もっと古く、もっと鋭い。


 戦いそのものに結びついた声。


 ユウトは立ち上がり、自然と膝をついた。


 それは、服従ではない。

 礼でもない。


 対話の姿勢だった。


『よく、ここまで来た』


『剣を振るう者よ』


『お前は、守るために戦う』


『ならば――名を与えよう』


 光が、形を持つ。


 現れたのは、一人の女神。


 冠はない。

 玉座もない。


 血と土と意志を纏った、戦う者の象徴。


『我が名は――』


 戦女神いくさめがみ

 アストライア=ヴァルキュリア


 闘いと勇気を司る女神


『信仰とは、跪くことではない』


『剣を捨てぬ覚悟だ』


 ユウトは、息を呑んだ。


『お告げを授ける』


『エルナ=グラディアを救え』


 その名を聞いた瞬間。


 ユウトの胸に、鈍い痛みが走った。


 山の国の王女。

 幼馴染。


 剣の国では、形式上――妃候補。


 強く、誇り高く、誰よりも気高かった少女。


 剣の訓練場で、何度も叩き伏せられた記憶。


『弱い男は嫌いよ』


 そう言って、笑った顔。


 からかいではない。

 本心だった。


 守られる存在であることを、拒む女。


(……だからこそ)


 石像となり、囚われているという事実だけが、胸に残る。


 彼女が今、何を思い、

 何を望んでいるのか――


 ユウトは、知らない。


 助けを求めているのか。

 誇りのまま、沈黙を選んでいるのか。


 分からない。


 ただ、不安だけが残る。


 ――その存在が、世界のどこかで止まっているという事実。


(それでも……)


 ユウトは、拳を握った。


(俺が助ける!)


『頼む』


「この指輪をエルナへ」


空からゆっくり指輪が落ちて受け取る。


 アストライアは、静かに頷いた。

 


『力を解放せよ』


 次の瞬間。


――レベル上限を解放します――

――剣術:Lv10――

――精霊術:Lv10――

闘女神の祝福 僧侶LV3


 世界が、広がった。


 剣は、道具ではなくなった。

 精霊は、力ではなく、対話になった。


 理解する。


 レベル10とは、

 「最強」ではない。


 責任を背負う地点だ。


 その時、隣に立つ気配。


 サラだった。


 彼女の瞳も、変わっている。


――精霊術:Lv10――


 精霊たちが、彼女を中心に集う。

 従うのではない。

 信頼している。


「……ここまで来たのね」


 サラは微笑み、そして真剣な声で言った。


「でも、ここからが本当の地獄よ」


 ユウトは、剣を握り直す。


「分かってる」


 レベル10は、終わりじゃない。


 神話への入口だ。


 世界樹の奥で、

 嵐が待っている。


 闇が蠢いている。


 そして――

 助けを待たない少女が、囚われている。


 ユウトは、一歩、前へ踏み出した。


 これは、無双の物語ではない。


 責任を背負った者たちの、始まりの章だ。


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