第六話 剣王の最期、その裏側
剣の国の終焉は、
外から見れば――一瞬だった。
天が裂け、
赤黒い光が降り注ぎ、
王都は炎に呑まれた。
それが、第一の光景。
だが――
すべてが、そこで終わったわけではない。
王城最深部。
崩れ落ちた天井の隙間から、
焼けた空気が流れ込んでいた。
その中心に、
一人の男が立っている。
剣王。
――否。
立っていること自体が異常だった。
全身に走る無数の裂傷。
右腕は失われ、
左目は焼け潰れている。
メテオ。
天より降った破滅魔法は、
王都だけでなく、
この男の肉体を徹底的に破壊していた。
それでも。
残った左手で剣を支え、
王は、まだ立っていた。
そこへ――
瓦礫を踏み越える足音が近づく。
黒曜色の重装鎧。
二メートルを超える巨躯。
黒耀帝国騎士団長。
ヴァルグリム=ノクス。
彼は、すぐに理解した。
目の前の男は、瀕死。
だが――
剣王。
レベル9。
同格。
万全なら、
結果は分からなかった。
「……来たか」
剣王の声はかすれている。
だが、その片目は鋭い。
「役割だ」
短い応答。
言葉は、それで足りていた。
剣が交わる。
音は、一度だけ。
剣王の一撃は遅い。
だが、重い。
経験と技量が、
失われた肉体を補っていた。
(……削られてなお、王か)
ヴァルグリムは確信する。
この男は、
最後まで“前線に立つ王”だ。
数合。
剣王の呼吸が乱れる。
身体が、限界を訴えている。
だが――
剣王は、剣を引いた。
ほんの、わずかな動作。
次の瞬間、
剣が光を帯びた。
秘技。
剣王国に伝わる、
王のみが振るう最終の型。
閃光。
世界が裂ける。
ヴァルグリムは反応した。
だが、間に合わない。
焼けるような痛みが走り、
視界が半分、闇に沈んだ。
片目を失う。
膝をつく。
(……これが、剣王の剣)
勝敗を覆す技ではない。
だが――
王として、生きた証を刻む一太刀。
剣王は、もう限界だった。
身体が、崩れる。
その一瞬。
ヴァルグリムは立ち上がる。
迷いはない。
闇の刃が走り、
剣王の胸を貫いた。
剣王は、膝をつく。
それでも、
剣を手放さない。
「……ならば」
かすれた声。
「私は、最後まで王だ」
刃が、振り下ろされる。
王城が、完全に崩れ落ちる。
炎と瓦礫に包まれながら、
剣王は、倒れた。
この戦いを、
誰も見ていない。
第一話で語られるのは、
ただ――
「剣の国は、メテオで滅びた」
という事実だけだ。
だが、真実は違う。
剣の国は、
最後まで、剣王が立っていた。
そしてその剣は、
黒耀帝国騎士団長の片目に、
確かに刻まれている。




