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『昔やっていたテーブルトークRPGの世界に転生し、精霊に好かれるところから始めます』  作者: ゆふぉん


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沈黙する魔王

 暗曜帝国の最奥。


 そこには、王座もなければ、玉座もない。

 飾り立てられた祭壇も、信仰を示す紋章も存在しない。


 あるのは、

 空白だった。


 光が届かず、闇とも言えない。

 温度も、音も、概念として希薄な場所。


 誰もが“そこに何かがいる”と分かるのに、

 何も見えない。


 報告が、静かに差し出される。


「……山の国に関する噂が、各地に広がっています」


 声は、震えていない。

 だが、喉が乾いている。


「一万七千の兵が石像となったこと」


「魔物も同時に石化したこと」


「王女が囚われ、国は落ちたと――」


 言葉が、自然と途切れる。


 “それ”の前では、

 続きを語る意味がないと、本能が理解していた。


 沈黙。


 長いのか、短いのか、分からない沈黙。


 やがて、誰かが恐る恐る続ける。


「……魔王の呪いだと、噂されています」


 その瞬間、

 空気が、僅かに軋んだ。


 怒りではない。

 否定でもない。


 ただ――

 世界が一拍、呼吸を止めたような感覚。


 問いが、続く。


「否定の布告を、出されますか?」


「我々が行ったものではないと……」


 誰もが、答えを知っていた。


 それでも、聞かずにはいられなかった。


 沈黙。


 再び。


 だが今度は、

 意思を伴った沈黙だった。


 名を持たぬ存在は、

 語らない。


 否定しない。

 肯定もしない。


 ただ――

 沈黙する。


 その沈黙が、意味するもの。


 それは、

 「否定する必要がない」という選択。


 噂は、

 恐怖を生む。


 恐怖は、

 秩序を均す。


 均された世界は、

 やがて一つに収束する。


 その流れを、

 止める理由がない。


 魔王は、理解している。


 噂が真実かどうかなど、重要ではない。


 重要なのは――

 人々が、どう行動するか。


 剣を置くか。

 城門を閉ざすか。

 膝をつくか。


 それを決めるのは、

 噂だ。


 誰かが、勇気を振り絞って口にする。


「……このままでは、

 暗曜帝国が世界の中心だと、

 皆が思い始めます」


 沈黙。


 そして――

 わずかな肯定。


 言葉ではない。

 命令でもない。


 ただ、

 沈黙が続いた。


 魔王は、名乗らない。


 名を持てば、

 理解される。


 理解されれば、

 対策される。


 だが、

 理解されない恐怖は――

 刃よりも深く刺さる。


 噂は、勝手に成長する。


 誰かが尾ひれを付け、

 誰かが色を足し、

 誰かが恐怖を上書きする。


 暗曜帝国は、

 それを止めない。


 魔王は、

 それを否定しない。


 なぜなら――

 それは、

 世界が自ら選んだ物語だからだ。


 世界が恐怖を選ぶなら、

 その恐怖を“真実”にしてやる。


 世界が沈黙を選ぶなら、

 その沈黙を“支配”に変えてやる。


 だが。


 魔王は、まだ動かない。


 世界は、まだ熟していない。


 精霊は完全には揃っていない。

 世界樹は、まだ完全には目覚めていない。


 王も、

 まだ現れていない。


 だから、

 沈黙する。


 噂が、世界を塗り潰すのを、

 ただ見つめながら。


 それが――

 名を持たぬ畏怖の、

 最も自然な在り方だった。


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