第二王子が「冒険者になる」と決めた日
す。
第二王子の本名を明示的に入れた完成稿を、流れを崩さずに書き直します。
(※偽名はまだ出さず、「この時点では名を捨てる直前」という位置づけにしています)
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第二王子が「冒険者になる」と決めた日
その日、戦場は終わっていた。
剣を振るう者はいない。
叫ぶ者も、逃げる者も。
ただ――
立ったまま死んだ兵士たちが、無言で並んでいる。
一万七千。
石となった兵の列は、地平線まで続いていた。
第二王子――
レオン=グラディアは、そこに立っていた。
斧を握ったまま、
一歩も動けずに。
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妹が、前へ出た。
王の制止も、
兵の叫びも、
すべてを置き去りにして。
彼女は振り返らなかった。
願いを告げ、
指輪を掲げ、
世界に命じた。
――コールゴット。
光が走り、
時間が、止まった。
敵も、味方も、
区別なく。
石化が、広がった。
レオンは、見ていた。
最初から、最後まで。
妹の指が、震えながら石へ変わる瞬間を。
表情が凍りつく、その一瞬を。
叫べなかった。
動けなかった。
あの場にいた全員が、
同じだった。
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夜。
山の王の執務室。
レオン=グラディアは、膝をついていた。
「……父上」
声は、低い。
「今日のことを、すべて聞かせてください」
王は、答えなかった。
答えられなかった。
だが、逃げもしなかった。
「……現れた」
王は、重く言った。
「魔王側近、第二位」
その言葉に、
レオンの背が強張る。
「名は――
ルクレツィア=ノクティス」
その名を聞いた瞬間、
レオンの中で、何かが噛み合った。
恐怖ではない。
納得だった。
「……やはり、か」
王は、目を伏せる。
「お前も知っているな」
「ええ」
千年に一人の天才。
処刑された魔女。
世界の理から外れた存在。
妹を“戦利品”ではなく、
“標本”として見た女。
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レオンは、静かに頭を下げた。
「妹を……探します」
王が、顔を上げる。
「無理だ」
「分かっています」
「ならば――」
「それでも、行きます」
迷いはなかった。
「王子としてではありません」
「兵としてでもありません」
斧を置き、
真っ直ぐに告げる。
「冒険者として、行きます」
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王は、何も言わなかった。
止める言葉も、
許す言葉も。
ただ、長い沈黙のあとで、
低く告げた。
「……商人王が動いている」
「二年かけて、冒険者を集めているそうだ」
レオンは、顔を上げる。
「冒険者を……?」
「表向きは、各国支援」
「だが実際は――
世界が滅びる前に、“使える者”を集めている」
レオンの目に、
初めて火が灯る。
「……そこに行けば」
「同じ目的を持つ者が、いる」
王は、ゆっくりと頷いた。
「お前一人では、届かぬ」
「だが――
冒険者なら、道は繋がるかもしれん」
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レオンは、深く一礼した。
「必ず、妹を探し出します」
「生きていても、
石のままでも」
「必ず――
取り戻します」
王は、しばらく目を閉じていた。
そして、低く告げた。
「……生きて帰れ」
それは、
王としてではなく、
父としての言葉だった。
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翌朝。
レオン=グラディアは、王城を出た。
肩書きも、
護衛も、
紋章もない。
あるのは、斧と――
決意だけ。
冒険者を集める場所へ。
妹を探すために。
そしていつか、
ルクレツィア=ノクティスの夜へ辿り着くために。
この名が、
やがて世界から消えることを――
この時、彼自身が最もよく分かっていた。




