1000年に1人の天才
――400年の夜に、生き残った魔女
彼女は、かつて
魔法国が誇る至宝だった。
名を――
ルクレツィア=ノクティス。
四百年前。
魔法研究が国家の根幹を成していた時代。
彼女は、生まれながらに異常だった。
魔力容量、詠唱速度、理論構築力。
そのすべてが、既存の尺度を破壊していた。
千年に一人の天才。
誰が言い出したのかは分からない。
だが、誰も否定できなかった。
そして同時に――
絶世の美女。
容姿すら、才能の一部として扱われた。
人々は彼女を見て、
魔法とはこうあるべきだと夢想した。
だが――
その本質を、誰も理解していなかった。
ルクレツィアにとって、
人間は「尊重すべき存在」ではなかった。
理解すべき構造体だった。
筋肉は、なぜ動くのか。
魂は、どこに宿るのか。
恐怖は、どの段階で意思を折るのか。
それらは、机上では解けない。
――なら、確かめるしかない。
彼女は実験を始めた。
最初は、重罪人。
次に、戦争捕虜。
やがて、孤児や病人。
結果は、常に正確だった。
理論は証明され、
魔法は進化し、
魔法国は、確かに恩恵を受けた。
誰も止めなかった。
いや――
止められなかった。
彼女の成果は、
あまりにも魅力的だったからだ。
転機は、ある夜だった。
彼女は、淡々と言った。
「魔法とは、血と同じよ」
「なら、血を捨てたらどうなるか――
試す価値があるでしょう?」
国家は、沈黙した。
その沈黙が、
拒絶ではなく恐怖だと理解した瞬間、
ルクレツィアは初めて“失望”した。
魔法国は、彼女を切り捨てた。
魔女裁判。
公開処刑。
理由は単純だ。
彼女は、
国家の制御を超えた。
処刑の日。
炎も、聖水も、杭も用意された。
人々は叫び、
救済を名目に彼女を殺そうとした。
だが――
彼女は、笑っていた。
「遅いのよ」
その時すでに、
彼女は ヴァンパイヤクィーン だった。
生と死の境界を越え、
人という枠組みを捨てた存在。
通常の手段では、殺せない。
処刑の瞬間、
彼女は“消えた”。
死んだのではない。
世界の側から、外れただけ。
それから四百年。
彼女は、戻ってきた。
魔王側近・第二位として。
理由は、単純だった。
魔王は、彼女を理解した。
理解し、
恐れず、
制御しようともしなかった。
それだけで、十分だった。
彼女はそこで、
一つの結論に至る。
――この世界には、
“超えてはならない線”がある。
だが同時に、
越えてしまった存在は、消されない。
⸻
現在のルクレツィアは、
戦争に興味がない。
支配にも、征服にも、興味がない。
彼女が欲するのは、
**“観察に値する例外”**だけ。
だからこそ、
あの王女の石像に目を留めた。
願いで世界を止めた存在。
自己を犠牲にして秩序を固定した、
唯一の標本。
「美しいわ」
それは、愛でも憎しみでもない。
研究者としての、純粋な評価。
彼女は言った。
「私の屋敷に飾りたい」
それは、脅迫ではない。
宣言だった。
返すかどうかは、王が選べばいい。
ただし――
選択肢の代償は、すべて彼女が決める。
ルクレツィア=ノクティス。
彼女は魔女ではない。
英雄でもない。
世界を材料として扱う女王。
そして――
彼女はすでに、
世界の理を超えている。
測定不能。
規格外。
魔法:12. この世界はヒトは10が最高でそれ以上はない
セージ:10
それでも、
世界は彼女を拒絶できない。
なぜなら――
拒絶する方法を、
もう、失っているからだ。
その夜は、
まだ、終わっていない。




