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『昔やっていたテーブルトークRPGの世界に転生し、精霊に好かれるところから始めます』  作者: ゆふぉん


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山の国、闘女神が生まれた日

――世界が止まり、魔が初めて死を知った日


 剣の王国が滅びてから――

 一年と、十一か月。


 世界は、もはや「均衡」という言葉を失っていた。


 次に歪みが現れたのは、

 山に囲まれた武の国――山の国だった。

世界は、確実に壊れ始めていた。


 その兆しは、

 山の国に現れた。


 隣国、暗曜帝国。


 侵攻兵力、約二万。


 対する山の国も、

 動員できる兵は、同数――二万。


 武の国と呼ばれた誇りは、まだ生きていた。


 戦の初動は、山の国が制した。


 斧兵が前に出る。

 盾を割り、骨を砕き、押し返す。


 ドワーフから受け継いだ戦法。

 狭所での白兵戦では、帝国兵は後退を余儀なくされた。


「押せ!」

「踏みとどまれ!」


 戦場には、まだ希望があった。


 だが――


 それは、三十分しか続かなかった。


 数は拮抗していた。


 空気が、低く唸った。


 違和感ではない。

 拒絶に近い圧。


 次の瞬間、

 世界に“言葉”が刻まれた。


 意味ではない。

 翻訳できるものでもない。


 古代語。

 世界に直接、命令するための言語。


 大地が跳ね上がった。


 裂け、隆起し、崩れる。


 兵たちは立てず、

 斧を振るう前に地面へ叩きつけられる。


 暗曜帝国軍の中央。


 そこに立つ存在が、片手を掲げていた。


 名もなきアークデーモン。


「――グランド・クエイク」


 それは自然災害ではない。


 操霊魔法。

 大地精霊を“支配”し、意思を無視して暴走させる古代語魔法。


 山の国が誇る“踏ん張り”そのものが、否定された。


 続けて、空が凍る。


「――ブリザード・テンペスト」


 冷気と暴風が、戦場を覆う。


 視界は白。

 呼吸は凍り、鎧は氷に縛られる。


 三時間。


 それだけで――

 一万の兵が死んだ。


 殺されたのではない。

 戦えなくされた。



 城壁の上。


 山の国王は、戦場を見下ろしていた。


 もう、勝敗は分かっていた。


 このままでは、国は滅ぶ。


 その背後に、

 静かに立つ少女がいた。


 エルナ=グラディア。


 十四歳。

 第一王女。


 斧を持ち、

 奇跡の代償を知った者。


「……父上」


 声は、震えていなかった。


「コールゴットの使用を、許可してください」


 王は、振り返らない。


「……ならぬ」


 その指輪が、

 敵を止める代わりに、使用者を奪うことを知っているからだ。


 沈黙は、否定だった。


 エルナは、何も言わなかった。


 ただ、背を向けた。


「待て!」


 王の声が背中に届く。


 だが、振り返らない。


 斧を背負い、

 戦場へ向かう。


(守ると、決めた)


(この国を)

(この人たちを)


 戦場の中央に、少女が立つ。


 兵たちが、気づく。


 エルナは、名を名乗った。


「私は――

 エルナ=グラディア」


「山の国、第一王女」


 その瞬間。


 世界が、止まった。



 一万七千。


 暗曜帝国兵が、

 一体ずつ、確実に、石へ変わっていく。


 叫びは途中で止まり、

 刃は振り下ろされる前に固定される。


 それは殲滅ではない。


 存在を“止める”奇跡。


 だが、その奇跡は――

 敵だけを選ばなかった。



 アークデーモンは、違和感を覚えた。


 足元が、動かない。


 視線を落とす。


 自分の脚が、灰色に変わり始めている。


「……?」


 指先も、関節も、石に侵食されていく。


 魔力を流そうとする。


 ――反応しない。


 MPは枯渇していた。


(……石化?)


 その瞬間、

 彼は初めて理解した。


(……これは)


(……死、か)


 完全に石になれば、戻れない。


 その刹那。


 胸元で、光が弾けた。


 命の指輪。


 魔王から授かった、伝説級アーティファクト。


 死を一度だけ拒否する力。


 光が、石化を押し戻す。


 侵食が止まり、

 灰色が砕け落ちる。


 だが、指輪に――

 無数の亀裂が走った。


 パキン、という乾いた音。


 命の指輪は、砕けた。


「……なるほど」


 アークデーモンは、息を吐く。


「人の願いが……

 魔王の指輪を砕くか」


 初めて、

 自分が“死にかけた”事実を認める。


 撤退を選ぶ。


 もう魔法は使えない。

 指輪もない。


 残っているのは、剣と執念だけ。


 石像の影に身を沈め、戦場を離れた。



 戦場の中心。


 エルナ=グラディアは、

 腰から上へ、ゆっくりと石になっていく。


 恐怖は、なかった。


(守れた)


(それで、いい)


 最後に、空を見る。


 山の稜線。


(……父上)


 謝罪も、後悔も、なかった。


 完全に、石となる。



 残ったのは――


 一万七千の敵兵の石像。


 そして、その中心に立つ、

 闘女神の像。


 山の国は、滅びなかった。


 だが――

 王女は、帰らなかった。


 後に人は、この日をこう呼ぶ。


 **「闘女神が生まれ、

  魔が初めて死を知った日」**と。


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