冒険者軍団結成――商人王が積み上げた二年、残された三年
世界が滅びるまで――
残り三年。
その事実を、知っている者は少ない。
だが、商人王バルド・グレイン=メルカトルは、
二年前からそれを“数字”として理解していた。
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冒険者を集める、という仕事
冒険者は、集まらない。
少なくとも、「正義」や「世界の危機」では集まらない。
彼らは、命を賭ける代わりに
現実的な見返りを求める。
バルドは、そこを間違えなかった。
彼が最初にやったのは、演説ではない。
帳簿を作ることだった。
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第一段階:信用を買う
危険度の高い依頼を、あえて細分化する。
成功率を上げる。
撤退条件を明文化する。
死者が出た場合は、
必ず遺族に補償を支払う。
逃げた者を、責めない。
生き残った者を、評価する。
冒険者たちは、気づき始める。
「……この商人、嘘をつかない」
「命を安売りしない」
半年で、噂が変わった。
“死なせない依頼主”。
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第二段階:格のある仕事を与える
次にバルドがやったのは、
名のある冒険者を、あえて使わないことだった。
中堅。
実力はあるが、名声が足りない者。
彼らに仕事を与え、
成功を積ませ、
装備と情報を回す。
成功した者は、次の仕事へ。
失敗した者には、理由を説明する。
冒険者は理解する。
ここは、
使い捨ての場所ではない。
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第三段階:現実を突きつける
一年が過ぎた頃。
バルドは、選ばれた冒険者たちだけを集めた。
場所は、自由都市の地下。
そこで初めて、
彼は“世界の話”をした。
「二年で、三つの国が消えた」
「暗曜帝国は、戦争をやめない」
「そして――」
その時は、まだ言わなかった。
残り三年という数字は。
冒険者は、まだ耐えられない。
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最終段階:三年という現実
二年目の終わり。
一万人。
生き残り、選ばれ、
“覚悟を持った者”だけが残った。
その前で、バルドは初めて言った。
「残り三年だ」
静まり返る。
「三年後、
この大陸は今の形を保てない」
「国は残るかもしれない」
「だが、世界は終わる」
誰も、笑わなかった。
すでに理解していたからだ。
この二年で見てきた
帝国の速度。
侵攻の正確さ。
潰された都市の跡。
数字が合う。
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商人王の本音
「諸君を集めたのは、
英雄にするためじゃない」
「世界を救うためでもない」
一拍置き、低く言う。
「三年後に、生き残る可能性を作るためだ」
「正規軍は、正面から戦う」
「諸君は、裏から戦え」
「補給を断て」
「指揮官を殺せ」
「“勝てるはずの戦争”を壊せ」
冒険者たちは、静かに頷いた。
彼らはもう知っている。
これは依頼ではない。
職業としての戦争だ。
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結成
こうして、
冒険者軍団 一万は完成した。
二年かけて集めた者たち。
残り三年で、
世界を繋ぎ止めるための刃。
誰も英雄になろうとはしない。
ただ――
終わりを、三年遅らせるために戦う。




